日銀の金融政策は、太平洋戦争時の日本と同じ状況に陥っているのではないか──
8月15日に終戦の日を迎え、ふとそんなことを思いました。
日銀の異次元緩和がスタートしたのは、2013年4月4日。日銀政策決定会合で、「マネタリーベースを2年間で2倍まで増やす」という大胆な内容が発表され、世界中から驚きの声が上がりました。「異次元」と言われるゆえんです。当初は2015年3月までの見込みでしたが、5年を過ぎた今も、マネタリーベース(日銀券と日銀当座預金の合計)は依然として拡大を続けています。さらに2016年2月には、マイナス金利政策が導入されました。
日銀の異次元緩和がなぜ太平洋戦争と重なって見えるのか。金融政策の先行きとリスクを考えながら説明したいと思います。

日銀はなぜ「物価目標2%」の旗を降ろさないのか
異次元緩和がスタートした当初、日銀の目的は二つありました。一つは景気の底上げ、もう一つはインフレ率の引き上げです。
まず、景気浮揚効果はどれだけあったのでしょうか。実質GDP成長率は、確かに2013年度2.6%、2014年度マイナス0.3%、2015年度1.4%、2016年度1.2%、2017年度1.6%と、低いながらもある程度の成長はしていますが、細かく内容を見てみるとなかなか厳しい状況です。GDPの約6割を支える「消費支出2人以上世帯」の推移を見てください。
消費支出2人以上世帯 (前年比%) | 銀行計貸出残高 (前年比%) |
|
---|---|---|
2013年度 | 0.9 | 2.3 |
2014年度 | ▲5.1 | 2.5 |
2015年度 | ▲1.2 | 2.5 |
2016年度 | ▲1.6 | 2.4 |
2017年度 | 0.2 | 2.8 |
2017年1月 | ▲1.2 | 2.6 |
2月 | ▲3.8 | 2.9 |
3月 | ▲1.3 | 3.0 |
4月 | ▲1.4 | 3.0 |
5月 | ▲0.1 | 3.2 |
6月 | 2.3 | 3.3 |
7月 | ▲0.2 | 3.4 |
8月 | 0.6 | 3.2 |
9月 | ▲0.3 | 3.0 |
10月 | 0.0 | 2.8 |
11月 | 1.7 | 2.7 |
12月 | ▲0.1 | 2.4 |
2018年1月 | 1.9 | 2.3 |
2月 | ▲0.9 | 2.1 |
3月 | ▲0.7 | 1.9 |
4月 | ▲1.3 | 2.0 |
5月 | ▲3.9 | 1.9 |
6月 | ▲1.2 | 2.1 |
7月 | ― | 2.0 |
出所:総務省、日銀
2013年度は前年比プラス0.9%(実質)と伸びました。これは2014年4月の消費増税に向けた駆け込み需要が発生していたからです。翌2014年度は、その反動で同マイナス5.1%まで落ち込みました。以降もマイナスの数字が続き、2017年度はプラスに転じましたが、それでもわずか前年比プラス0.2%という状況で、家計の消費は低迷を続けています。
異次元緩和の成果が現れるはずの銀行融資はどうでしょうか。「銀行計貸出残高」を見てください。2013年度以降、前年比プラス2%台前半の水準で伸びていたのが、月別の数字で見ると、2017年の春先から夏にかけては3%台にのせました。しかし、その後は再び2%前後まで戻っています。マネタリーベースを急激に増やしても、銀行融資はそれほど伸びていないと言えます。設備投資等の資金需要がそれほどないからです。日本経済の足腰は弱いままなのです。
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