かつて低収益企業だったJR九州は、国から「経営安定基金」が交付されていました。経営安定基金3877億円を運用した利益で鉄道事業の赤字を補填し、地域の鉄道インフラを維持するためです。鉄道事業は従来、100億円程度の赤字続きでしたが、基金の運用益でそれを補てんしていたのです。

 もちろん、この基金の出どころは税金(または、財政赤字)です。そして、あくまでもその基金の「運用益」のみをJR九州は利益補てんに利用できるという構図でした。基金の取り崩しには、制約がかかっていました。ですから、本質的には、同社が上場する時は、その基金は国庫に返納すべきでした。しかし、同社は上場時に、経営安定基金そのものをもらってしまったのです。

海外展開の前に九州内の鉄道サービスを

 その後、JR九州は、基金のうち2205億円を九州新幹線使用料の一括前払い金に使いました。「新幹線使用料」とは、運送する事業者が、線路や駅舎などの建造物を所有する事業者に対して支払う使用料です。

 JR九州の場合は、九州新幹線の施設を所有する「鉄道・運輸機構」に、毎年約100億円の使用料を払っていました。これを、上場時に20年分ほど前払いしたのです。つまり、上場から20年間は、従来に比べ年間100億円分の利益が上乗せされることになります。

 高収益である二つ目の要因は、減損処理の影響です。上場の際、減損処理をして鉄道資産の価値を5256億円下げました。減損をすれば、その分、減価償却費が減ります。

 これら二つの要因から、年間200億円近い利益が上乗せされているのです。従って、鉄道事業を含む運輸サービスは、2018年3月期に292億円の利益が出ていますが、実質的にはそれほど利益が出ていないと考えられるのです。

 JR九州も、そういった問題は重々承知しているのでしょう。その証拠に、冒頭でも触れたように2018年春から九州新幹線と在来線をあわせた117本を減便し、特急列車も一部の区間が削減されました。無人駅も増えており、鉄道サービスの低下が止まらない状況です。

 収益性を高め、東証一部上場に漕ぎ着けたことは評価すべきことかもしれません。ただ、JR九州の戦略を見ていると、地域住民への貢献から、株主への貢献に重点が変わりつつあるのではないかという印象を受けます。

 もちろん、これは通常の上場会社なら当然のことですが、鉄道事業という独占事業を任され、なおかつ元々は国有財産(=国民の資産)である経営安定基金3877億円まで受け取ったわけです。その点を考えますと、収益のために地域の鉄道サービスを低下させ、不動産事業に注力するという姿勢は、いかがなものかと思います。

 昨年には、タイで長期滞在も可能なホテル「サービスアパートメント」事業に参入したとのことですが、海外展開を目指す前に、九州内の鉄道サービスにも注力すべきではないでしょうか。

 株式上場により、公共性が低下し、株主第一主義に陥っていないかが私がとても懸念していることです。

 さらに事業構造上の懸念もあります。不動産事業の比重を高めつつありますが、日本は人口減少が急速に進んでいます。ここ数年、2020年の東京五輪に向けて不動産の「プチバブル」が起こっていましたが、東京では早くも一部もマンションが売られ始めているという話があります。

 この先、不動産価格が低迷したり、あるいは暴落したりした場合、事業構造のリスクは大きくなる可能性があります。

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