頭打ちになりつつある米国景気は、厳しい交渉につながる恐れも

 もう一つ気になるのは、米国内の景気です。米国の主要な指標を見渡しますと、少し頭打ちではないかと感じるのです。

米国の経済指標
米国の経済指標
出所:米国政府
[画像のクリックで拡大表示]

 雇用の数字は失業率、非農業部門増減数ともに好調を維持していますが、17年1~3月期のGDPは実質年率0.7%と前の四半期の2.1%から大幅に減速しました。ただし、一時的という見方も根強く、次の四半期の数字を注意して見る必要があります。

 それから、3月には消費者物価指数が前年同月比プラス2.4%にとどまり、前月比で見ると1年ぶりのマイナスとなりました。ただし、この水準は米国の中央銀行であるFRBがターゲットとしている「2%」を依然上回っていますから、6月以降のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げを決定する可能性は高く、このことも景気の重しになる可能性もあります。もちろん、トランプ政権は利上げには慎重ですが、FRBとしては今のうちに次の景気後退に備えて金利という「のりしろ」を作っておきたいわけです。

 リーマン・ショックから約8年間、景気回復が続いている点を考えますと、当時の落ち込みが凄まじかったとはいえ、そろそろ景気はピークを迎え、その後は後退期に突入してもおかしくありません。

 米国景気が鈍化すれば、当然、保護主義的な動きが強まります。米国の主要な指標には、引き続き注意が必要です。

米国はしたたかに軍事を経済交渉に利用する

 日本は、安全保障において米国の傘の下に入らざるを得ません。安全保障で日本に貸しを作った米国は、経済では強硬的に交渉を進めてくるしょう。日本は米国の同盟国ではありますが、それは軍事的同盟国であって、経済的には完全にサポートするというわけではもちろんないのです。

 米国は昔から非常にしたたかな国で、常に経済的にベストな選択を探ります。典型的な例は、米中関係です。米国は人権問題にとても厳しい国ですから、人権侵害で世界的に非難されていたミャンマーなどに対し、貿易規制を強化したことがありました。

 ところが、同じく人権問題が深刻とされる中国に対しては表面的には厳しい態度をとるものの、そのための経済制裁などはあまり強化しませんでした。中国と米国の間には、米国企業も多く中国で活動していることから、経済的な利害関係がたくさんあるからです。ですから、米中は軍事的に対立しつつも、米国は自国の経済に不利にならないように中国とのうまい関わりや距離感を常に模索しているのです。利害関係の大きい国に対してはある意味「二枚舌」的にふるまうことも少なくないのです。

 日本に対しても、同様の姿勢を見せる可能性があります。日米首脳会談では、「日米同盟は強固である」とアピールしていましたが、見方を変えれば「日本は同盟国なんだから、経済では米国の顔を立てろ」というメッセージでもあると解釈できます。もっと言えば、安全保障面で譲る代わりに、その分を経済分野で返してほしいという態度をとると考えられます。

 トランプ大統領の支持率が低下するほど、こういった圧力が強まるのではないでしょうか。すでに農業州であるカンザスなどの一部の州では、トランプ離れが進んでいるとの報道もあります。

 となりますと、トランプ大統領としては、余計にポイントを稼ぎたいはずです。例えば、豚肉や小麦を大量に日本に売ることができれば、国民にとっても分かりやすい話です。

 米国がTPPから離脱した時、JAは喜んでいたかもしれませんが、今後はTPP11として交渉が再開されるとともに、日米間で貿易交渉が始まるでしょう。そして、先から何度も述べているように、ここではTPP以上に厳しい条件を要求される恐れがあります。少なくとも、TPPより緩い条件になることはありません。

 万一、自動車の関税も、従来の2.5%から大幅に引き上げられるようなことがあれば、日本の自動車業界は大変な影響を受けるでしょう。特に、影響を受けるのはマツダやスバルなどといった輸出比率の高いメーカーです。2社は資本力がありますから、工場を米国に移転すれば済む話かもしれませんが、周辺の自動車部品メーカー、とくに2次3次下請けメーカー、さらには拠点を置いている広島や群馬県太田市などの地域は、非常に厳しい状況に追い込まれる可能性があります。今後の日米間での交渉の行方からは目が離せません。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。