政府が米国抜きの環太平洋経済連携協定(TPP)、通称「TPP11」の早期実現に向けて動きはじめました。トランプ米政権が誕生したことで、TPPは一時頓挫するかに見えましたが、今度は日本がTPP11の締結を主導していこうとしています。
なぜ、政府はTPP11の実現に積極的なのでしょうか。その思惑について考えます。

2月10日、安倍晋三首相とドナルド・トランプ米大統領の日米首脳会談が行われました。両首脳は、日本と中国の間で問題の火種になっている沖縄県の尖閣諸島について、米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約第5条の適用対象と確認。さらにトランプ大統領は、大統領選挙中に主張していた在日米軍の駐留経費の日本の負担増ついても一切言及しませんでした。安全保障という観点からは日本から見れば「満点」の結果を得たのです。
これに対しもちろん政府与党は、会談の成果を強調しましたが、当然、その見返りも必要になるはずです。
そのテーマは、日米間の通商問題です。首脳会談では、経済政策や貿易・投資ルールについて、具体的に話し合っていくことで合意しました。そこで新設されたのが、麻生副総理とペンス副大統領をトップとする日米経済対話です。4月18日に初会合が開かれました。
日米間の経済交渉は、当然のことながら安全保障の問題と密接に関係しています。特に、北朝鮮の緊張が高まれば高まるほど、経済交渉に関しては米国は強い態度で臨めますから、日本は不利な立場になってくるのではないでしょうか。北朝鮮の緊張が高まれば、「米国は安全保障に協力するから、日本は経済で譲歩すべきだ」という構図になるからです。
日米通商交渉ではTPPより緩い条件はあり得ない
政府は今、TPP11の交渉を積極的に進めようとしています。それ自体は日本にとって悪いことではありませんが、米国を除くわけですから、日本経済にはそれほど大きなインパクトはありません。他の10カ国から見ても、メリットが小さくなった国も少なくないはずです。
それでも政府が積極的にTPP11を進めようとする裏側には、大きな思惑があると私は考えています。
米国は今後、日本に2国間での貿易協定を要求してきます。まずは農業分野や自動車分野の交渉となるでしょう。そのスタートラインは、TPPで合意した条件になるはずです。多国間交渉では、米国もある程度は妥協が必要でした。ましてやTPPはオバマ政権がイニシアチブをとってはじめたことですから、どうしても締結したかったので、米国としても妥協はありました。しかし、日米2国間の交渉となると、米国はTPPより厳しい態度となることは間違いないでしょう。
つまり、日本にとってはTPPよりも緩い条件になることはあり得ないということです。例えば、2015年10月に大筋合意したTPPの内容は、多くの品目において関税撤廃となり、日本は当初方針から大きく譲歩する形になりました。それよりも厳しくなる可能性があるということです。日本にとって最善でもTPPでの妥結点です。
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