経営権をめぐって実の父娘間で対立し、娘の大塚久美子社長が勝利してから約2年。リーマン・ショック以降、急速な業績悪化に苦しんでいた大塚家具は、久美子氏の新しい戦略によって息を吹き返すかどうか注目されていました。ところが、2016年12月期決算では過去最悪の赤字に陥ったということです。
一方、競合のニトリは、17年2月期決算で30年連続の増収増益を達成。同じ家具業界あっても、はっきりと明暗が分かれました。この原因は、何でしょうか。2社の決算内容から探ります。
経営権を巡る父の争いに勝利した大塚久美子社長だが、その後の業績は苦戦が続く(写真:Pasya/アフロ)
まずは、大塚家具の2016年12月期決算を見てみましょう。売上高は前期より20.2%減の463億円。本業の儲けにあたる営業利益は45億円の赤字。最終利益である当期純利益は45億円の赤字と、惨憺たる状況に陥っています。
その間、家具業界全体が不調だったかといえば、そんなことはありません。ニトリホールディングスの2017年2月期決算を見ると、売上高は12.0%増の5129億円、営業利益は17.4%増の857億円、最終利益は27.7%増の600億円。はっきり言って絶好調です。
同じく一部競合商品を扱っている良品計画も17年2月期は増収増益となり、6期連続増益を達成。つまり、大塚家具の業績悪化は、家具業界全体の動向によるものではなく、同社の経営上の問題と言えます。
「 銀行借り入れなし」が父娘対立深めたか
大塚家具は、業績が急激に悪化しているとはいえ、すぐさま倒産の危機に陥るわけではありません。
中長期的な安全性を示す自己資本比率は69.1%。棚卸資産などの流動資産が多い小売りのような業種では、15%以上が安全かどうかの目安になりますが、大塚家具はそれを遥かに上回る水準です。
もう少し詳しく見てみましょう。貸借対照表によると、資産の部にある「現金及び預金」が前の期には109億円あったのが、この期には38億円まで急減しています。その一方で負債の状況を見ますと、銀行からの借り入れがいまだに全くありません。
つまり、元々は潤沢な資金を持っていましたが、このところの業績の悪化によって手持ちの現預金が一気に切り崩されたと分かります。
私は、この「銀行からの借り入れがない」という状況が、2年前の父娘間の対立を深めてしまった原因の一つなのではないかと考えています。一般的に、同族会社が親子間の対立などで揉めた場合は、取引銀行の支店長や役員、大塚家具などの大きな会社の場合なら頭取などが出てきて仲裁に入ることがあります。銀行は融資をしている立場ですから、発言権が強いのです。
ところが、大塚家具は融資をまったく受けていませんから、銀行という仲裁役がいませんでした。おそらく他にも仲裁に入れる人がいなかったのでしょう。こういった構図から、父娘の対立が激化していったのではないでしょうか。
「新生・大塚家具」が大失敗した理由
かつて大塚家具は、業界最大手の家具メーカーでした。父・勝久氏の高級路線が大当たりして1990年後半から業績が急速に伸びていき、2001年に営業利益がピークに達しました。以降は横ばいながらも好景気の波に乗り、2007年まではピークの時ほどではないもののある程度の水準を維持。ところが2008年のリーマン・ショック以降、みるみる悪化していきました。
かつて同社は高価格帯の家具を取り扱い、一人ひとりのお客様にコンシェルジュのような販売担当者がついて営業をするというやり方で販売していました。景気のよい時代には、こういった「ワンランク上の家具店」は人気を集めていましたが、2008年以降に不況がやって来ると、消費者は低価格商品を求める傾向が強まり、従来の方法では収益が伸びにくくなってしまいました。勝久氏が続けてきたビジネスモデルが時代に合わなくなってきたと言えます。
業績悪化に歯止めがかからないまま2015年を迎え、ついに久美子氏は、「これまでの高級路線を見直して、幅広い層のお客様が来てくれるような店舗にするべきだ」と主張し始めました。ここから、「高級路線を貫く」と主張する父との対立が始まります。
結局、激しい内紛劇を経て、経営権は久美子氏の手に渡り、「新生・大塚家具」がスタートしました。大幅な値下げを行ったり、若年層が好むようなラインナップを増やしたり、「必ず販売担当者がつく」という従来のスタイルを廃止するといった戦略を次々と打ち出していきました。
ところが、これらの戦略は結果をともなうものではありませんでした。来客数は増えたものの、業績の回復には至らなかったのです。
理由はいくつかあると言われています。一つは、消費者に「大塚家具は低価格路線に転換した」というイメージを与えてしまったこと。久美子氏は「自分たちの方向性を適切に伝えられなかった」と発言しています。
二つめは、住宅会社との提携解消によって、家具のまとめ買いがなくなったこと。三つめは、マンツーマン形式の接客が廃止されたことで、大型店での新築客などによるまとめ買いが減少し、単品購入が増えたことです。
今のところ、利益の蓄積にあたる「利益剰余金」は215億円あるので当面は問題がないものの、このままの業績が続くと、安全性の水準が低下していきます。
久美子社長は次の戦略として、小型店と専門店の拡大、インテリアコーディネーターに相談できる有料サービスの開始、ネット販売の拡大などの項目を挙げています。
ただし、先にも触れたように現預金は急減していますから、今後は銀行などからの借り入れや社債を発行しながら新たな投資をしていくのではないかと思います。これにより銀行や外部のアドバイスをこれまで以上に得られるようになるかもしれませんね。
「回転率の差」に表れた戦略ミス
大塚家具の業績が悪化した主な理由は「戦略の失敗」です。数字的に見た場合、「商品の回転率」にその差が大きく表れています。
貸借対照表の資産の部に計上されている「商品」を「商品売上原価」で割り、回転率を計算しますと、大塚家具は0.66年(8.0カ月)分、ニトリは0.20年(2.4カ月)分となります。
ニトリの方が、商品の回転が大幅に速いことが分かりますね。回転が速ければその分売上げが上がり、資金負担がかからず、新しい商品がどんどん入って来ることでお客様からも喜ばれます。
もう一つ、売上原価率(売上原価÷売上高)を計算しますと、大塚家具は46.6%、ニトリは45.8%。ほぼ同じです。ただし、回転率が大きく異なるため、ニトリの方が非常に効率的で、その差が圧倒的な利益の差となっているのです。
余談ですが、2社の売上原価率はいずれも45%程度ということは、売上総利益率(1-売上原価率)は約55%と非常に高い水準です。多くの人は、「ニトリの家具販売は薄利多売だろう」というイメージを持たれているかもしれませんが、実は厚利多売なのです。ちなみに、ユニクロの売上原価率も50%程度。こちらも厚利多売のビジネスと言えます。
売上原価率、商品回転率という2つの側面から見て、ニトリのビジネスモデルは素晴らしいと言えます。大塚家具はニトリよりかなり遅れをとっているものの、すぐさま危険な状況に陥るというわけではありません。
久美子社長の新しい戦略が功を奏するのかどうかですが、私は、経営とは、「企業の方向づけ(戦略)」だけでなく、「資源の最適配分」、「人を動かす」の3つの要素が必要だと考えています。それらが総合されて経営力となるわけですが、今の大塚家具には、総合的な経営力という観点からも問題がありそうです。今後の業績に注目です。
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