日本企業の99.7%は中小企業

 政府は、残業時間の上限規制の実施時期について、大企業は2019年4月としているのに対し、中小企業は1年遅らせて2020年4月にする方針を定めました。これも問題です。中小企業に1年間の猶予を与えたとしても、その間、大企業のコスト削減のしわ寄せをもろにかぶる中小企業の労働者は残業をしても仕方ないですね、というメッセージにもなりかねません。

 日本企業のうち、大企業の占める割合は0.3%、中小企業は99.7%。従業員数ベースでは約70%が中小企業に属しています。つまり、会社で働く大部分の人にしわ寄せが及ぶ可能性があるということです。大企業で賃上げなどが行われれば、そのコスト上昇は、中小企業の収益を圧迫し、その分、余計に働く人にサービス残業などでしわ寄せがくる可能性もあるのです。中小企業の社員には働き方改革どころではないことにもなりかねません。

 同一労働同一賃金についても疑問が残ります。2017年12月の「現金給与総額」の表を見てください。これは、1人当たりの平均賃金です。

2017年12月 現金給与総額
2017年12月 現金給与総額
出所:厚生労働省
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 12月の数字なのでボーナスが加わっています。業種別に見ますと、最も低いのは、「飲食サービス業等」の15万1254円です。一方、最も高いのは、「電気・ガス業」の102万874円です。なぜ、これほどまでに飲食サービス業の賃金が低いかというと、非正規雇用の比率が高く、もともと給与が低いうえにボーナスの恩恵が及んでいない人が多いからです。

 同一賃金同一労働を実施したとしても、非正規の従業員が大部分を占めるのであれば、この業界全体として賃金が大きく上がることは期待しにくいわけです。

 一方、賃金の高い金融や電気・ガス業が安泰かというとそうではありません。昨秋にメガバンク3行の大リストラが報じられましたが、フィンテックや規制緩和などでこれと同じことが他の金融や電気・ガス業界にも起こる可能性があります。

 「賃上げ」「生産性の向上」。言葉の響きは素晴らしいですが、諸刃の剣であることも忘れてはなりません。市場が拡大している時は両方の実現が可能ですが、市場が伸びないあるいは縮小している時は、生産性の向上により人員が余る可能性が高いのです。この国の経済は90年代初頭から、本質的には拡大していません。ひとり当たりの給与のピークは今から20年以上も前の1997年なのです。

 私は、生産性の向上を目指すことには反対ではありません。企業として注力すべき点だと考えています。ただし、経済が拡大しない中では、働く人が削減される可能性があるのです。また、先にも述べたように、そのような状況での大企業の賃上げは、下請け企業に影響が出る可能性も高いのです。

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