失業手当の受給者が“闇”で働くことを抑止する

 現行では種々の公的手当を受け取るためには、一定額の収入を越えてはならない。もし、収入が増えれば手当はストップする。失業手当に関して言えば、仕事を見つけて失業状態から脱すれば失業手当の支給がなくなるため、それを避けて、隠れて“闇”で働くことになりがちだ。そうなると、その人の労働から国家に入るはずの税収がなくなってしまう可能性が高い。

 シンプルな例を一つ挙げることとする。スペイン・マドリードで、年間4500ユーロ(約51万5000円)の生活保護を受けているある市民が年収7200ユーロ(約82万3000円)の仕事を手に入れたと仮定しよう。失業手当と比較すると月額2700ユーロ(30万8000円)の増収となる。だが、もちろん就業するので実業手当受給はストップとなる。その上、税金を引いた後の実収入は額面の62.5%となってしまう。

 いつ貧困層に落ち込むかもしれぬ労働者に、こんな所得税率を適用する意味があるのだろうか。こんな状況では、失業手当を受け取っている間は税金から逃れられる“ブラック”な仕事をするか、確定申告をしないという選択をするというのも理解できる。

 失業手当を受け取りながらも闇で働くことをとどまらせるための何かいい方法は、あるだろうか?

 無条件に定期的に手当を支給してこの人が貧困層に陥らない、という生活のベースをまず作り、その上で労働で得た額面からきちんと税金を収めてもらうという生活に移行してもらう方が、受給者にとっても社会にとっても意味があるのではないだろうか。

人工知能や機械化が、仕事を奪っていく近未来

 今後、さらなる機械化や人工知能などのソフトウエアによって生産性が向上し、仕事自体が減って行くと考えられている。それがために職を失った人の多くは、貧困層に落ちる可能性がある。そしてその時、社会福祉手当の支給の条件は収入が全く無いことが証明できること──。そんな状況が普通になる可能性をふまえて、我々はこれから持続可能な未来をどうデザインしていけばよいのだろう。

 これまで見てきたように、失業手当は「支給条件」を設けることで新しい仕事を探す意欲を削いでしまっている可能性がある。失業手当を受給している人が働き始めると手当の支給が止められたり削られたりするため、働く意欲をそいでしまう。これにより、むしろ貧困からの脱却が難しくなる「貧困の罠」の問題を内包していると言われる。

 似たようなケースを挙げれば、スペインの場合、年金を受け取っているライター(作家)にある一定額以上の著作権収入が入った場合、年金支給はストップする可能性がある。しかし、保険料を長年支払ってきた年金の支給を国家が停止してよいのだろうか? このカネは厳密に言って国民のものだ。

社会保障の受給に「条件」を設けると経済活動が停滞する

 このように生活保障受給に「条件」を設けると経済活動が停滞する。前に述べたライターの例では、まだ書けるのに書かなくなってしまうという事態が起こるかもしれない。受給者の経済活動に関係なく無条件で年金を支給すべきではないのだろうか。

 ベーシック・インカムの提唱者は、思想的に「左」でも「右」でもない。ただ未来を見ているだけだ。人工知能などといった新しいテクノロジーが雇用を奪っていく近い将来を見据えて、ブルーカラーや単純労働だけではなく、全ての労働者にとってこの新しいシステムは解決策となり得るかもしれないと、私は考えている。