
ごく一握りの富裕層が、大半の富を所有する世界
インターネットや人工知能、ロボティクス(ロボット技術)といった分野の最先端の技術──いわば「ニューテクノロジー」によって経済や社会の大規模な構造変革が進んでいる。
そして、構造の変革の陰で、現代の税制は富の再配分という機能を果たさなくなりつつある。富める者と持たざる者との格差は開く一方だ。国際非政府組織(NGO)・オックスファム・インターナショナルの調査によると、世界の上位1%の富裕層が、残り99%の人々の富を合わせたよりも多くの富を所有しているという(※試算方法などの違いにより、世界で1年間に生み出される富のうち82%を、世界で最も豊かな上位1%が独占している──などとする別のデータもある)。
この問題を放置したまま無視するならば、米国や欧州などですでに起こっているような政治的混乱はさらに激化するだろう。
先進各国の経済のデータを分析していると、従来の経済の常識では理解しにくい現象が起こりつつあることが分かる。
たとえば、賃金と雇用について考えてみる。多くの欧州諸国では、2008年の金融危機──日本で言う「リーマン・ショック」から10年近くの歳月を経て、GDPや雇用の伸びにおいてほとんど回復したにもかかわらず、平均賃金はいまだに停滞しているのが現状だ。英国やドイツ、日本でも、同じような低失業率の中で賃金の伸び悩みが続いている。
失業率は低いが、賃金は上がらない謎
さらに、雇用が創出されているにもかかわらず、その給与が国の経済を活性化させる力はなく、税収の継続的な低下傾向に歯止めがかかってはいない。そして、2008年のリーマンショック以降に生み出された富の大半は、富裕層に配分されているという事実がある。
雇用の創出も従来とは異なる動きを見せており、歴史が指し示した流れとは別の道を歩んでいる。例えば、先進各国における雇用の伸びの多くは、「専門職」または「単純労働」においてであり、その中間にある職種の雇用は伸びていない。その結果、かつて先進各国の中流の階層に属していた人々の多くは、今や中流の下や、下流の階層に属し、かつてないほど経済的に不安定な生活を送っている。
人間の間だけではなく、企業間の生産性の伸びにも分断が見られる。 ごく限られた少数の企業だけが高い生産性向上を達成していて、大半の企業では目立った生産性向上は実現されていない。
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