illustrated by Miguel Panadero
近年、UberやUpWorkのような全く新しい形態を取る企業が出現している。この画期的な企業形態が、先進国の経済を根本的に変えるだろうと指摘する声は多い。
根本的な変化といったところまで行き着くのか、私としては確信できないところもあるがこの新しい現象は伝統的な雇用モデルを前向きに見直すきっかけを与えてくれる。
まず、異なる2つのモデルを区別・整理することが必要だ。“peer-to-peer”スタイル(発注者と受注者が直接コンタクト)をとるもの(BlaBlaCarとかAirB&B)と、ウェブサイトなどを通じて単発の仕事を受注する働き方を指す「ギグ・エコノミー(gig economy)」の2つの形態である。
社員中心からフリーランス中心への大転換
始めのタイプは例えば車、家などの情報を直接交換して売買を成立させるもの。ギグ・エコノミーと呼ばれる第2のタイプは、社員からフリーランサーへと伝統的な雇用形態に一大変化をもたらす、と予想されている。
多くの研究が指摘しているように、フリーランスで働く人の数は急激に増えている。1つには『古典的』な雇用の喪失、2点目は自分が自分の上司になって、仕事を好きなようにオーガナイズしていきたいという労働者たちの志向が高まっていることがある。私はこの傾向は全く当然の帰結、といえると思う。
というのは昨今、企業が労働者たちに課すレベルは高く、それを背負った労働者たちは仕事と私生活の両立に大変な労力を費やしている。
とはいえ、フリーランサーたちにも、絶えず重要な決断を自ら下していかなければならないという厳しさがある。例えば収入に関しての中期的見通しを誤ると、経済的に支障をきたすことになり、それまでの消費生活のレベルを下げざるを得なくなる、つまり生活そのもののクオリティーに直接ひびいてくるということだ。
フリーランスの仕事をグローバルな市場に持って行くと、事態はさらに複雑化する。個人的にはUpWork(旧Enlace)というクライアントとフリーランサーの仲介サイトを使った経験がある。使い方は非常に簡単で、クライアント側はやって欲しい仕事内容を掲載する。
私が依頼した内容はあるコンファレンスのためにインパクトあるスライドに修正してもらうこと。数分後にかなりの数のオファーが来た。15から20人のプロたちが過去の作品のサンプルと見積を提示。私の国スペインはもとより、遠くはインドやバングラデシュからもオファーがあったのには驚かされた。
インターネットの世界ではどこにいても同等の条件で競合することができ、共に働く人材に向かってかつてなかった新しい扉を開いてくれる。しかしその代償も大きい。価格競争は激烈で、欧米の価格ではその他の地域と競合することは不可能だ。
2020年には米国雇用の40%がフリーランスに
例えば私のケースだと、バングラデシュのプロフェッショナルと今もいっしょに働いているが、彼は同等のクオリティーで他の人の5分の1の価格となっている。大企業のやるアウトソーシング(外部委託)やオフショアリング(海外委託・移管)はこれまで外側から見てきたが、クライアントとしてあるいは労働者として実際に体験してみると、考えさせられることが多い。
この新しい形態がもたらす社会の変化、それは既に現れている。アメリカでは2020年には雇用の40%がフリーランスによって占められると予測。タクシー配車サービスUberでは、運転手たちが労働時間をめぐって被雇用者の権利を主張、これに対して会社側は別の要求を提示している。同様にFedExでは運転手は下請けとしての契約であるがFedExの制服を着ており、最低労働時間が課されている。
当然のことながら雇用側、被雇用側も2つの対立項の中で自身に有利なものを求追求する。被雇用側は自主・独立と安定、雇用側はなるべく低い人件費と会社への忠誠。しかしながら労使双方を同時に満足させる解決策はなく、永遠のジレンマといえるだろう。
現在台頭しつつある新しい経済の形を良しとするか、あるいは前世紀のスタイルがいいのか? 私はそれは労働者のタイプによると考える。専門職の実力あるフリーランサーは自身の手でプロジェクトを構築できる。これには危険は伴うにしても、持ち前の交渉能力でやっていけるだろう。
その反対に経験が浅く、専門性が低い職種の労働者は、特に不景気の時にはその影響をもろに受け、過剰な労働力オファーの中で競争する力がないまま、下降線をたどる、といったことが起こってくる。
組織に属さない、「ギグ・エコノミー」という新しい労働の形。これに関しては、労働者の権利といったことも含め、社会の中での位置づけをきちっとさせ、労働市場の中で一定の規則を作っていかなければならないだろう。
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