ホワイトカラーの管理職や専門職は、機械化による代替を免れ、むしろその人の仕事をサポートするために人工知能が取り入れられる、と一般的には考えられている。例えば、経営者が機械学習を使って仕事の質を高めたり、機械学習を企業組織の円滑な運営のために活用する、といった使われ方だ。

ホワイトカラーの仕事も例外ではない

 しかし、である。人工知能はそのようには使われていないのが現実だ。実際には想定以上のことが起こっている。例えば様々なメディアで展開する、広告戦略を練り上げ、実施する作業。これはホワイトカラーの仕事と考えられてきたが、実際には「広告管理ソフトウエア」の影響をもろに受けている。

 これは、社会の動きや個々のユーザーの動向を踏まえ、ネット上の広告の価格をリアルタイムで交渉、決定したり、効果を予測したり、ネットで配信したり──広告にまつわる業務を総合的に行って費用対効果を最大化するソフトウエアだ。従来は、ホワイトカラーの管理職が一定の基準に従って結論を出していた。しかし、管理職が依っていた基準は明確で透明性があるとは言えず、勘や経験則といったものも含まれていた。ところが、人工知能を活用したソフトウエアがこの業務を担うと、プロの人間以上に正確な仕事をし、出してくるデータの精度も向上した。

 タクシーやトラックの運転手たちに起こり始めていることと全く同様だ。クルマの自動運転システムは休憩時間も必要ないし、人間のように疲れて注意散漫になることもない。そればかりか事故の数も極端に少なくなり、人間の運転手よりもよい仕事をするようになるだろう。

人工知能は人間よりもっと良い仕事をする

 では、人工知能はどのレベルまで、ホワイトカラー管理職の仕事を代替できるのだろうか。様々な要素がからみあう複雑な状況や条件の中で交渉し、最適な決断を下してゆくのが管理職の主な仕事と考えられているが、その仕事内容はディープラーニング(深層学習、機械学習の一種で主に生物の神経系の挙動を模して自ら学習できるようにデザインされたシステム)で対応可能な領域だ。

 ディープラーニングなどの機械学習は、一定の解決策を講ずるとか、自動的に決断を出すといった平板な作業を行うのではない。その反対に刻々と変化する状況を正確に把握し、最大の利益を得られる方策や決断を導き出していく。その中には緊急性を含むものもあれば、長いスパンでの戦略が必要なものもある。現時点で言えることは、それらの人工知能のテクノロジーは、いずれ人間よりもよい仕事をするようになる、ということだ。

 「グーグル」「フェイスブック」「マイクロソフト」といった先進企業の業務は、人工知能のテクノロジーなどにより真っ先に機械化可能なブルーカラーの仕事とは全くかけ離れているが、それらの企業は積極的に人工知能を取り入れている。このことは私たちに大きなヒントを与えてくれる。

 ディープラーニングなどの機械学習によって、多くの製品やサービスは、従来ホワイトカラーワーカーたちが連携して作り上げてきたものからは想像もできないくらいに、クオリティーが上がる。この当然の帰結として、専門職の仕事と考えられてきた業務も、ディープラーニングなどを取り入れたプログラムに取って代わられていくだろう。

人間の情報収集能力や分析能力を圧倒的に凌駕

 現在、言語を扱うテクノロジーは、アルゴリズムによって多様な言語の分析が可能で、人間よりも理解力が高い、というレベルまで到達している。複雑な文脈も正確に読み取る能力がある。これによって膨大なSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の書き込みを検索して、ある特定の産業や企業、あるいは活動に関する膨大な情報を収集したり分析することが可能だが、これは人間の情報収集能力や分析能力を圧倒的に凌駕する。生身の人間では一生かかっても絶対に読み取れない数のデータをAIは瞬時に読み、分析することが可能だ。

 企業において、重要な決断を下すまでのプロセスを、人工知能が担う日がいずれくるだろうか? おそらく、それはもはや時間の問題だろう。ホワイトカラーに残された主な仕事は「判断」であるが、その部分でさえ多くが自動化されてしまうことになる。それが現実となった時には社会全体における画期的、そして重大な変革が起こるはずだ。

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