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 コンビニはこれまで、巨額の投資によって、およそ個人経営では備えるのが困難な通信網と物流網を備え、圧倒的な競争優位を構築して来ました。コンビニが用意する多彩な決済手段はその一例でしょう。しかし今、個人商店は、消費者が支払うスマホ代(端末代、通信費)にコストを転嫁することにより、極めて低コストで――極端に言えば、印刷したQRコードを壁に張るだけで――キャッシュレスの決済手段を手に入れられるようになりました。個人商店だけではありません。例えば、生産者、あるいは個人ですら、大きな投資なしに決済インフラを利用できる時代を迎えようとしているのです。

 現状、コンビニが導入しているコード決済は、上記2例のうち後者に当たるものが大半です。つまり、強さの源泉である自社通信インフラを回避するような決済を自ら導入しているわけではありません。しかしながら、例えば一部のコンビニチェーンが対応したPayPayは、両種の決済手法に対応しています。PayPayのようにQRコード決済機能を備えた決済サービスに対応するということは、とりもなおさず、コンビニが構築してきた独自網から独立したオープンな決済手段の普及に手を貸しているということでもあります。「顧客が求めるから」「集客できるから」と大手チェーンが対応を進めれば進めるほど決済手段としての普及度が上がり、個人商店などがその決済サービスを導入する動機を強めることになるからです。

 今はただ、やや不便な決済手段が1つ増えるかどうかの話に過ぎません。個人商店がQRコードでキャッシュレス決済の手段を得たからと言って、コンビニと同等の物流網を構築できるわけではありません。

 ですが、かつて「店員が選び、店員が運ぶ」という買い物の行動様式を「消費者が選び、消費者が運ぶ」と転じたセルフサービスが競争優位を築いたように、小売店が担うべきと誰もが考えていたインフラやプロセスを消費者自身に担わせるというコペルニクス的な転換は、インターネットやスマホの普及によるコスト構造の劇的な変化と、それによる競争環境の激変の兆しとも見えます。

 QRコード決済だけではありません。コンビニは「顧客の移動距離を1歩でも縮め、棚の無駄な商品を1つでも減らす」努力を続けてきたと書きました。その1歩の距離や1つの無駄な商品をそれぞれゼロにしてしまうのがEC(インターネット通販)の威力というものでしょう。消費者はECを使えば、自宅から1歩も出ずに、自分が望む商品だけを手にすることができます。これもまた、消費者が「店に行く」というプロセスを、消費者自身のコスト(インターネットの通信費、パソコン代、スマホ代)に転嫁するという転換でした。

 経済活動とはヒト、モノ、カネの移動と交換の営為です。情報は、その情報自体が商品(モノ)である場合を除けば、ヒト、モノ、カネの移動を代替する手段に過ぎません。ヒトが店に行くのか、情報として自宅で見るのか。モノを自宅に届けるのか、自分で家に運ぶのか。カネを現金で渡すのか、カネを払ったという情報を店が送るのか、自分で送るのか。流通史の中で企業の盛衰を握るのは、上記プロセスのどの部分を誰がどう担うのかという覇権争いでした。

 ついでに言えば、インターネットによってヒトの知覚は拡張できる(店に行かなくても商品を選べる)し、カネの動きは代替できます。ただ代えられないのがモノの動きです。今、物流業界で需要過多による人手不足や遅配が起きていたり、アマゾンや楽天などのEC大手が物流体制の強化に努めていたりするのはその現れと言えるでしょう。