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スーパーを生んだ「プロセスの転換」

 モノを手に取って選び、カゴに入れ、レジに持って行ってお金を払う。今では当たり前と言える今日の「買い物のユーザー体験」が成り立ったのは、(顧客が商品を自ら選択し、決済の場まで運ぶ)「セルフサービス」を売りにした「スーパーマーケット」という業態が誕生して以降です。その嚆矢は1900年代初頭の米国に求められると言われていますが、日本では戦後、1953年の「紀ノ国屋」開業を待たねばなりませんでした。スーパーマーケットが小売業の覇者となるのは1970年代。セルフサービスによらない伝統的な小売り業態が主流だった時代は、それほど昔ではありません。

 「伝統的な小売り」とはどんなものだったかを知るには、テレビアニメ「サザエさん」に登場する酒販店・三河屋の三平さんを思い浮かべていただければそれが好例の一つです。台所に隣接した「勝手口」を訪れてサザエさんと世間話を交わしながら、商品を渡したり、足りないものはないかを尋ねたり、古い瓶を引き取ったり、代金を回収したりしています。一般に「御用聞き」と呼ばれる商いの形態です。

 酒だけでなく、肉や野菜、魚、米など、それぞれの専門店が流通の要でした。こうした商店では、消費者は店員と会話しながら購入する商品を決め、代金を支払って初めて商品を手にすることができました。手に取って選び、レジに運ぶ。スーパーマーケットでは誰もが当たり前に取る「行動様式」は、少し前まで全く当たり前ではなかったのです。

 店員が選んでいたのが、顧客が選ぶようになった。店員が手渡し、場合によっては自宅まで運んでいたのが、顧客が自らレジに運び、自宅に持ち帰るようになった――。新たな行動様式を生んだ「セルフサービス」とは、いわば、舗側が担っていた「モノを運ぶ」「モノを選ぶ」というプロセスを、消費者に転嫁する、代替させるモデルだったと言えます。

 この転嫁によってスーパーマーケットは売上高当たりの従業員を個人商店より減らすことができ、値引きの原資を培いました。のみならず、交渉ではなく値札で価格を明示しなくてはならなくなったことから、顧客にとっては価格の公明性が向上し、これも顧客の信頼を勝ち得ることに繋がりました。結果としてスーパーマーケットは、個人商店に対して競争優位を確立させていくのです。

 流通の世代交代を生む「プロセスの転換」。この視点で流通史を見直してみることで、QRコード決済というモデルが持つ本当の威力が見えてきます。

物流と通信がコンビニを生んだ

 日本の流通史において、スーパーマーケットに次いで覇を唱えた業態がコンビニです。この飛躍も「プロセスの転換」の結果と見ることができます。

 スーパーマーケットの成長によって個人商店の一部は廃業に追い込まれましたが、踏みとどまった商店の多くは小型店舗ながらセルフサービス方式に切り替えることで命脈を保ちました。言ってみれば、その生き残ったセルフサービス型個人商店を駆逐したのがコンビニという業態です(個人商店がコンビニに転換した例も多いので、個人商店を閉店に追い込んだというよりも、その多くを塗り替えたことにより、業態として「駆逐した」ということを言っています)。

 コンビニが代替したのは、まずは「顧客が自宅から店に行く」プロセスです。コンビニの多くの店舗では商圏が半径1キロ未満。消費者の移動プロセスを代替したのです。ただし商圏が小さくなれば商圏人口は減ります。それでも成り立つように、固定費を抑えるべく数十平米以内の小型店舗でなければなりませんでした。

 と、書けば大層なことのようですが、ただ「顧客の家の近くに小型店を開く」というだけであれば、そもそも個人商店とはそうしたものです。コンビニは個人商店と何が違ったのでしょうか。一言でいえばそれは、通信網と物流網でした。