ビジネスが一瞬で姿を変え、国境を容易に超えていく中で、「デファクト・スタンダード(事実上の標準)を握る」とか「系列化、垂直統合で戦う」だとか、これまで勝利の方程式として語られていた戦略や戦術が陳腐化していく可能性もあります。標準というものが常に揺らぎ続け、業界や業種というものも溶けていく時代、予想もしなかった異業種との協業が新たな価値を生むこともあれば、昨日のライバルと協業して新たな競合に当たることもあるはずです。2015年によく聞いたキーワードでもある「オープン・イノベーション」という発想は、このあたりから来ているような気もします。

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 自由競争をもたらすのはネットだけではありません。例えば2015年には環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が大筋で合意に至りました。TPPは自由貿易協定の一種です。自由貿易とは、要するに、私がコンビニでコーラを買うように、米国のモノを気軽に変えるような取引の状態――関税や非関税障壁を極小化し、国境を越えてモノやサービスの売り買いを自由にできるような取引の状態を指します。自由貿易の実現は、自由競争の前提の1つです。

 つまり、今、経済活動が、国境や業界・業種の垣根、規制などの「ボーダー」を容易に越えていく、それらの垣根が溶けていく時代を迎えつつあるように思います。

 まずもって、自由競争がもたらす現実はおそらく残酷です。より弱肉強食の、強い者がますます富む世界がやって来ることになるでしょう。

 2015年には巨額のM&A(合併・買収)が相次ぎました。ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブが、同業界2位の英SABミラーを710億ポンド(約13兆円)で買収。米IT大手デルは同EMCグループを670億ドル(約8兆円)で買収。米ホテル大手のマリオット・インターナショナルは同業のスターウッド・ホテルズ・アンド・リゾーツ・ワールドワイドを122億ドル(約1兆5000億円)で買収。米製薬大手のファイザーはアイルランドの同業大手アラガンを1600億ドル(約19兆7000億円)で事実上、買収すると発表しました。

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 これらの動きは、租税回避などの個別の事情はあるにせよ、大きく捉えるならば、グローバル企業が、よりプリミティブな競争の時代を迎える準備をすでに始めていることの現れと言えるかもしれません。理屈で言えば、自由競争の環境下では、より大きく強い者が勝つことになります。強者は、より強くあるために継続的に投資を続けることができ、その強みで大きな利益を上げて、さらに投資し続けることができるからです。

 しかし、自由競争の時代を迎えることは、守るべきものを抱えた既存のプレーヤーにとってはリスクでもあります。自分たちを守ってくれていた障壁が失われ、外敵の脅威に晒されることを意味するからです。そして、挑戦者にとってはチャンスです。優れたアイデアとそれを実行する力があれば、新興国の一青年でも革新的なビジネスを始めて世界を変えられるような時代を迎えつつあります。

 近年「スタートアップ」という言葉を「日経ビジネス」の記事中でもよく見るようになりました。しがらみなき自由競争の時代を拓く起業家が、もっと日本にも生まれて来てほしいと願わずにはいられません。

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