こうした事例は航空産業に限るものではありません。
ある新製品のアイデアを持っていて、これを製造、販売したいと思った人がいたとします。以前であれば、まず銀行など金融機関に融資を頼むなどして資金調達する必要がありました。次いで、アイデアを図面にしてくれる設計者を雇い、要件を定義しなければなりません。さらに、材料を調達した上で、試作して出来を確認し、生産ラインを組み上げるか、もしくは下請け工場を探して生産を始める必要があります。小売店などを回って販路を開拓し、製品を届けて売り上げの回収に汗をかく必要もありました。
ネットが時間を加速させた
しかし今日。例えば資金調達はクラウド・ファンディングで募ることができるかもしれません。図面を引く仕事も、クラウド・ソーシングに委ねることができるかもしれません。CADデータをネットで送れば、3Dプリンターで試作してもらってデザインを確認できるかもしれません。試作品に問題がなければ、EMS(電子機器の受託生産サービス)に発注すれば、調達から物流まで面倒を見てもらえるでしょう。生産工程が不安なら、「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)」化されたEMSであれば遠隔地からリアルタイムで監視することも可能かもしれません。ネットで販売すれば、小売店の開拓は不要かもしれません。多様な決済手段を「フィンテック(金融とITの融合)」が用意してくれるかもしれません。
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フィンテックは目的ではなく、手段に過ぎない
「インダストリー4.0」「クラウド・ファンディング」「クラウド・ソーシング」「フィンテック」など、2015年には様々なバズワードが生まれました。これらのいずれもが、人間が何かを生み出そうという時に助けになってくれるツール、ソリューションであり、「発想」から「実行」までの時間の流れを加速させる側面を持っています。
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これまでインターネットは、通信機器の中に存在するに過ぎませんでした。しかし2016年以降、「IoT」化が加速して私たちの生活を囲むあらゆるモノにネットが介在するようになります。結果として、上記のようなネットから生まれたソリューション群は、その力が及ぶ範囲をますます拡大させることになるでしょう。しかもITの進展は、そのコストを劇的に下げ続けています。
その先に、どんな未来が待っているのでしょうか。
そこに広がるのは、優れたアイデアが、「時間」を要することなく、一瞬でビジネスに姿を変える世界です。裏を返せば、事業環境の整備に「時間」を要するという参入障壁では、どのプレーヤーも身を守れない世界です。
家内制手工業、問屋制家内工業、工場制手工業(マニファクチュア)、そして工場制機械工業へと、何段階かの飛躍を経て人類史における「時間ROA」は高まり続けて来ました。
これから起こる変化は、これまでにないような大きな飛躍になる可能性があります。テクノロジーによって「時間」が極限まで短縮され、「場所」の制約さえ乗り越えられていく。それまで「川」の流れのように徐々に加速していた時間が、まるで「滝」が落ちるように飛躍的に加速し、起業の時間軸が、二次関数的に短縮して限りなくゼロに近づいていく。ここでは仮に、その状態を“ウォーター・フロー(滝)の経済”と呼んでみたいと思います。
「ウォーター・フローの経済」がもたらす自由競争
滝の垂直落下がもたらす自由落下が無重力状態を生むように、ウォーター・フローの経済は、限りなく「自由競争」に近い競争状態を生むことになるでしょう(自由競争とは、干渉や規制、障壁がない状態でなされる競争状態を指します)。
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