先述のように、人類史上、1秒当たりに生産される財の量は増え続けています。言い換えれば、あるモノやサービスを生産するための時間は短縮し続けています。さらにこれを言い換えれば、経済現象の時間軸は「加速」し続けている、とも言えます。

 これは、単純に、生産技術が向上しているという話ではありません。

LCCはなぜ強いのか

 例えば、なぜ格安航空会社(LCC=ローコスト・キャリア)が伸びているのか。販路をウェブに絞る、機内の食事や飲み物を有料にする、手荷物を預かるのも有料にするなどの徹底したローコストオペレーションでコストを削減し、販売価格を抑えて、空の旅をコモディティ化したからだ、と説明されます。もちろんその説明は誤りではありませんが、十分とは言えないと思います。コスト削減だけで彼らは成功しているのではありません。

 もともと、航空会社のほとんどは国営でした。民間で担うには、航空産業が「重すぎた」からです。航空機がそもそも高価であるのに加えて、これを安全に飛ばし続けるためには常にコストをかけて整備をし続けなければなりません。ある国から、どの国のどの都市に就航させるのか、という選択は、航空会社の経営を超えて、外交や国家戦略と直結するものでした。航空産業は、民営化こそ進みましたが、依然としてこの「重さ」を宿命的に抱えて込んで来ました。

 これを逆手に取ったのがLCCでした。彼らの多くは、機材を所有しません。リースで調達します。整備部門も持ちません。整備の専門業者に任せます。場合によってはレガシーキャリア(従来の航空会社、フルサービスエアライン)の整備部門に発注することもあります。必ずしも自国のハブにこだわらず、第三国同士を結ぶ路線の開拓にも積極的です。

 LCCの経営は、PL(損益計算書)の観点から「コスト削減で安売りする経営」と見ては本質を見誤ります。BS(貸借対照表・バランスシート)の観点から「持たざる経営」に徹していることこそが、その経営の本質です。つまり彼らは徹底して「軽い」のです。機材や整備をアウトソーシングすることで、LCCはマーケティングやサービスに専念することができます。路線開発やプライシング(値付け)で、トライ&エラーの頻度を上げることもできます。だからチャレンジの時間軸が圧倒的に速く、結果として強いのです。

 かつて航空会社を一から立ち上げようとすれば、機材を購入し、整備部門を立ち上げて人材を育てるところから始めなければなりませんでした。しかし今日、機材をリースで提供してくれる会社があり、整備のアウトソーシングを請け負う会社があることで、立ち上げに要する「時間」はぐっと短縮されました。産業が高度に分業化され、それぞれを最適なプレーヤーが最適な資源(場所、モノ、カネ)で担うようになることで、起業のスピードが劇的に加速した一例です。