ポケモンGO Plusがインタフェースや機能を削ぎ落としたのは、3500円という、デジタルデバイスとしては安価な価格に売価を抑えるためだけでなく、振動を感じてボタンを押すだけで操作できるというシンプルな“触覚デバイス”であろうとしたことの表れであるようにも思える。

 人間は2つのものを同時に見ることはできない。だが、指で何かに触れながら別のものを見ることはできる。ポケモンGO Plusは、「視覚」を捨てて「触覚」に特化したことで「可処分時間を倍化する」ことに成功したと言っていい。

ポケモンパワーでまたキャズムを超えるか

 ポケモンGOがキャズムを悠々と超えて、1つのゲームのために専用デバイスを買いたいと思わせるほどのインパクトをユーザーにもたらしたからこそ、こうしたデバイスが量産でき、新たな“時間消費”のかたちを生み出し得た。前回の記事でも書いたが、それは任天堂が育ててきたポケモンというIP(知的財産)の強さと普遍性があってこそなし得たものだ。

 11月以降、増産されたポケモンGO Plusがユーザーに行き届けば、スマホの機能を補助して可処分時間を拡張するデバイスもまたキャズムを超えていくかもしれない。その先にあるのは、リニアな可処分時間の奪い合いではなく、ゴーグル、リストバンド、無線式イヤホンなどの各種デバイスを駆使した、人間の五感で多層化されていく可処分時間の奪い合いだろう。

 かつてウォークマンは「歩きながら音楽が聴ける」という体験を提示し、「聴覚」に訴えるデバイスでユーザーの可処分時間を倍化したことで新たな市場を開いた。A、Bボタンと十字キーという単純なインタフェースで豊潤なマリオの世界を生み出した任天堂が、いま世に送り出すボタン1つのプラスチック製のデバイス。AR(拡張現実)に続き、ポケモンGOは、ポケモンGO Plusを世に出すことによってスマホ市場の競争にまた新しい地平を切り開く可能性を秘めているかもしれない。