「視覚」ではなく「触覚」デバイス

 ポケモンGO Plusの作りは極めて単純だ。この端末には、頭脳に相当するCPUも、ディスプレイも、カメラも、全地球測位システム(GPS)受信機も内蔵されていない。あるのは、スマホ本体と通信するためのBluetooth機能。多色発光するLED(発光ダイオード)。そしてたった1つのゴム製とおぼしき物理ボタンのみ。ゲームサーバーとの通信や計算処理などはスマホ本体に任せて、この端末自体は、ユーザーとゲームを繋ぐ役割のみを果たすように設計されている。おそらく、3500円でもそれなりの利益が出るだろう。

 この単純なプラスチック製の端末がなし得ることとは何か。

 それは「可処分時間の倍化」に他ならない。

 いまスマホというプラットフォームを舞台に、ニュースアプリやゲームアプリや交流サイト(SNS)などの運営会社が繰り広げているのは「可処分時間の奪い合い」だ。ある人が仕事や睡眠などを除いて自分のために使える時間は限られており、各社とも、その時間をいかに自社サービスで占有するかにしのぎを削っている。

 スマホは端末の特性上、マルチタスク性に乏しく、画面サイズも限られており、パソコンのように複数のサービスを同時に使うことは困難だ。また、当然ながらユーザーがスマホで費やせる可処分時間というものも限られている。それゆえに、スマホユーザーの可処分時間を占有できる「覇者」は限られる。

 ところがポケモンGO Plusは、上記のように「メールを送受信しながらポケモンを捕獲する」といった行動を可能にした。あるユーザーがメールに送受信する折に「スマホに費やす可処分時間」を、そこに上乗せするかたちでポケモンGO Plusが占有できるようになったというわけだ。言い方を換えれば、可処分時間は2倍に増加させた、ということになるだろう。

 このデバイスが視覚を占有しない点も特筆すべき点として挙げたい。

 スマートウォッチのようにディスプレイを搭載せず、インタフェースと言えるものは、わずかにLEDの発光色とバイブの振動数のほかない。ユーザーが、アイテムが獲得できる「ポケストップ」にたどり着いたり、野生のポケモンに遭遇したりすると、それぞれ異なる色でLEDが発光して、一定の振動数で知らせてくれる。

 ただし、どんなアイテムが得られたか、どのポケモンが現れたのかといった情報は、スマホの画面を確認するまで全く分からない。すでにこのデバイスを入手した多くのユーザーも、結局のところ、スマホ画面もポケモンGO PlusのLEDも見ずに、「ポケットの中で振動したら物理ボタンを押す」「たまにスマホ画面を見て、獲得できたアイテムやポケモンを確認する」といった操作方法に落ち着いているようだ。

 ポケモンGO Plusというデバイスの本質は、つまり、これまでの多くのデバイスがそうであったような「視覚」に働きかけるものではなく、いわば「触覚デバイス」であるという点にあるだろう。