そもそも、ウェブは「コピペ」や「パクリ」で汚れていた。
ライターやブロガーが汗水を垂らして記事を書き、ネットに公開しても、そこから得られる収入は薄利。無報酬のブロガーも多い。キュレーション勢は、そうした記事を寄せ集め、検索エンジン最適化(SEO)という技法を用いて巨大なアクセスを生み、一次情報の発信者を尻目に収益化していった。ライターやブロガーが権利を訴えたところで、著作権法が定める「引用」の印籠をかざされるだけだ。
引用の範疇を超えた明らかな著作権法違反だとしても、キュレーション勢には「プロバイダ責任制限法」という第2の印籠がある。責任は記事の投稿者にあり、掲載したサイトは指摘があってから削除すれば責任を免れるといった法律だ。だが実際には削除申請の手続きが煩雑で、泣き寝入りする既存メディアやライター、ブロガーは多い。キュレーション勢への鬱屈した憤りは臨界点に達しつつあった。
DeNAの騒動後、彼らの怒りの矛先がキュレーションサイトの先駆けである「NAVERまとめ」に向かっているのはそのためだ。運営しているLINEは、投稿された記事の約3分の1を削除するなど健全化に努めているが、それでも「画像を盗用された」などライターやブロガーからの告発が後を絶たず、DeNAの炎上は同じ東京・渋谷の複合ビル「ヒカリエ」に入居するLINEへと延焼している。
だからこそ、WELQやiemoなどDeNAのキュレーション事業がやったことは許されるはずがなかった。
DeNAのキュレーションサイトは、一般ユーザーが投稿できるキュレーションの「プラットフォーム」を標榜しておきながら、実態は粗雑な記事を大量に内製する「メディア」だったからだ。
テレビ会議には参加している村田氏
MERY以外の9サイトは、クラウドソーシングを通じて外注された記事が6~9割もあった。MERYは同1割で、DeNAも当初は「問題がない」としていたが、記事投稿のほとんどが大学生のアルバイトによるもの。運営するペロリのウェブサイトに「MERYは、トレンドに敏感な女の子のためのキュレーションプラットフォーム」とあるが、その実は単なる内製メディアという点で、他9サイトと大差はない。
つまり、新聞社や雑誌社がアルバイトにネット上から情報をかき集めさせ、コピペまがいの手法で大量に記事を作成するのと同じこと。引用は厳格にすべきであり、プロバイダ責任制限法で逃れることもできない。にもかかわらずキュレーションという言葉を隠れ蓑に、問題のある記事を粗製乱造していたことの罪は大きい。
そうした手法をDeNAに持ち込み、事業全体を統括していた村田氏の責任は免れないだろう。彼女は今もシンガポールにおり、黙して語らず。謝罪会見で守安社長は、村田氏が東京で事態の対処や収拾に当たらない理由を「健康的な問題も絡んでいる」と答えたが、12月2日に開催したキュレーション事業の管理委員会の会議には、いつものようにテレビ会議で参加したという。
同時に、それを看過した守安社長の責任もさらに追及されるに違いない。12月15日、DeNAは日本アイ・ビーエムの取締役などを歴任した名取勝也弁護士を委員長とする第三者委員会の設置を発表。向こう3カ月を目処に詳細な事実関係の調査や原因究明にあたるという。ここで膿を出しきらずしてDeNAの未来はない。
「いや、みんなやっていたじゃないか。なんでうちだけ……」。守安社長や村田氏の脳裏にそんな思いがかすめた瞬間があったかもしれない。そうかもしれないが、DeNAがやってはいけなかった。言い換えれば、社会の公器としての自覚があまりに足りなかった。
なお、本誌は村田氏へのインタビュー取材を申し込んでいるが、実現の目処は立っていない。

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