守安社長は謝罪会見前の12月5日深夜、本誌のインタビューに応じた(撮影:的野弘路)
守安社長は謝罪会見前の12月5日深夜、本誌のインタビューに応じた(撮影:的野弘路)

 守安社長は本誌のインタビュー(「DeNA守安社長、独自インタビューで胸中明かす」)で、買収時の判断についてこう語っている。

 「買収額については精査をした結果です。iemoはインテリア、ファッションはMERYということで、この手法はほかのジャンルにも広がるよねと。食や旅行が空いているよねと。まさに今(複数のキュレーションサイトのプラットフォームである)『DeNAパレット』としてやっているような大きなビジネス戦略を描いた上での買収ですし、金額も妥当だと判断しました。今でもそう思っています」

 しかし、本当にそうなのだろうか。

 関係者によると、村田氏はパーティー会場で守安社長に、「ほかの幾つかの会社とも(事業売却の)話をしています。だいたい10億円のレンジで話をしています」「ただ、話は上(各社のトップ)には、いっていない。判断が遅いんですよ」とも伝えたという。買収の競合相手をちらつかされた守安社長は、競合から5億円増しの15億円を村田氏に提示することで、2カ月を期限とした独占交渉権を得たようだ。

潰れた硬派な医療メディア「Medエッジ」

 当時のDeNAが置かれた状況は厳しかった。高収益を叩き出していたソーシャルゲーム事業「モバゲー」は、2012年に社会的な批判を浴びた「コンプガチャ問題」や、スマートフォン向けゲームアプリの台頭を契機に急降下していた。無料通話アプリの「Comm」や、音楽配信アプリの「Groovy」など新規事業を打ち出していたが、これらも、ことごとく失敗していた。

 一方で、「スマートニュース」や「グノシー」といった新手のニュースアプリが台頭。これも、新聞社や出版社など旧来メディアが発信するニュースを寄せ集めた「キュレーションメディア」の一種であり、ソーシャルゲームバブルの崩壊で行き場を失った投資マネーがそうした新手のメディアに一気に流入した時期と重なる。

 そして、iemoのようなジャンル特化型のキュレーションも数多く勃興した。水面下ではあらゆる買収話が進行しており、実際に2014年10月、KDDIはハウツー系のキュレーション「nanapi」を77億円で買収するなど、ベンチャー界隈はキュレーションバブルの様相を呈していた。

 そうした状況下で守安社長に「先手を打ちたい」という焦りがあったとしても不思議ではない。「早くしないと他社に売りますよ」と競合の存在を匂わされれば、なおのこと。その焦りが、iemoがはらむ危うさやリスクをおざなりに買収を拙速に進める、という過ちにつながったのではないか。その後の焦りについて守安社長は、以下のように本誌のインタビューで語っている。

 「(買収後に、iemoなどの著作権の問題を)グレーから白にしていかなければいけないと思う一方で、成長も維持しなければならないという思いがありました」「これだけゲーム事業が下がっている中で焦りやプレッシャーがないと言えば嘘になります。その中でバランスを失い、やり方が間違っていたことがあったのかもしれません」

 もう1つ、守安社長は医療情報の扱いも見誤った。ある「譲渡」がなければ、ここまで問題は大きくなっていなかっただろう。

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