ミツハシ、戻って来い

ミツハシ:シマジさん、いつの間にそんな手回しを……。

シマジ:シマジ教信者の力を侮ってはいけない。教祖が一声かければ、これくらいあっと言う間だ。

ミツハシ:高弟である私に一言の断りもなしに……。

シマジ:高弟のくせにしばらく休もうなんていう腹づもりをしているから、逃げ場をなくしてやったんだ。

アソシエ:話をもとに戻しましょう。

シマジ:こら、なんだその「アソシエ」というのは、最後になって匿名性の裏に隠れるつもりか?

アソシエ:連載はアソシエの思いもよらない方向に進んでいったという話でしたね。

シマジ:ミツハシ、戻って来い。

ミツハシ:そう言えば、対談相手の呼称が「アソシエ」から「ミツハシ」に変わったのは第22回でしたね。シマジさんの「表に出て来なさい」という言葉によって、本来黒子の編集者が前に出ることになりました。それによって私の人生も思いもよらない方向に進んだと言えるかもしれません。

 名前を出したことで「乗り移り」読者に多くの友人を得、そこから大きな影響を受けました。もちろん、一番影響を受けたのはシマジさんですけどね。着るものが変わり、パイプを覚え、飲む酒が高級になり、いささか浪費家になりました。何より、人生をもっと愉しもうと思うようになりました。

シマジ:それを言えば、俺も「乗り移り」の連載で思いがけないことが次々と起こった。「乗り移り」連載前まで、俺のコラムを読んでくれていたのは主に50代以上の男性だったが、「乗り移り」のおかげで30代、40代の読者が増え、そして女性読者も増えた。

 その中には俺にじか当たりしてきて友人となった者も少なくない。彼ら彼女らは俺の新しい仕事をサポートし、新しい愉しみを与えてくれた。その意味で、「乗り移り」の連載は俺の人生にも大きな影響を与えているんだ。

ミツハシ:最近では大学生の書生ができ、書生のカナイくんが社会に出て行くと、中学生の書生希望者が名乗りをあげるほどですからね。

シマジ:「乗り移り」は本当に多くの縁を生んでくれた。

開高健文豪が結んでくれた縁

ミツハシ:私がシマジさんにお会いしたきっかけは「編集者マグナカルタ」(第329回参照)についてお話を伺いに行ったことでしたから、遡れば開高健文豪が結んでくれた縁ともいえますね。

シマジ:本当に縁というのは面白い。大事にしなくてはいけないね。

 俺が「乗り移り」をやっていて何よりうれしかったのは、相談に乗った読者が伊勢丹メンズ館のサロン・ド・シマジを訪ね、「おかげで霧が晴れました」とか「もう一度頑張ってみます」と前向きな言葉を口にしてくれたことだ。サロンに来られない人もコメント欄に言葉を残し、相談者以外も様々な意見を記してくれた。これも大切な縁だと俺は思っている。

 インターネット上には不寛容で不機嫌な言葉が満ち溢れているようだが、「乗り移り」のコメント欄の言葉は、どれも読み応えのある文章だった。読者の知的水準の高さが感じられるコメントを俺はずっと愉しんできた。その意味で素晴らしい読者に恵まれた連載だったとみんなに感謝しているんだ。

ミツハシ:同感です。

シマジ:だからこそ、この連載を休んではいけない。来週からまた全力で飛ばすぞ。

アソシエ:読者の皆さま、長い間ありがとうございました。

シマジ:だから隠れるな。ミツハシ、おい、ミツハシ。おーい。