学問の前提さえ崩しかねない世界観

シマジ:次はガラリと変わって『20世紀のファウスト(上・下巻)』(鬼塚英昭著、成甲書房)を薦める。上下巻合わせて1400ページ近い大作だが、一読、巻を措く能わずとはこの本のことだ。20世紀の歴史的大事件の裏側には国際ユダヤ資本の意志が働いている。それをトルーマン政権の商務長官を務めた実業家のアヴェレル・ハリマンを通じて描ききったのがこの本だ。

ミツハシ:つまりユダヤ謀略説の本ですか。

シマジ:ありていに言えばそういうことであり、世間的に見たら、この本は奇書の類かもしれない。でも、この本を俺に教えてくれたのは経営学の阪口大和教授でね。阪口教授は「この本を読んだら、学生に経営学を教えるのが虚しくなった」と言っていた。そりゃあそうだろう。ロスチャイルド家をはじめとするユダヤ資本が世界を実質的に支配しているという構図は、組織経営や経済の法則性を明らかにしようとする学者からしたら、学問分野の前提さえ崩しかねない世界観だからね。

 でも、そこまで言われたら読んでみたくなるじゃないか。それで手に取ったら、あまりの面白さに夢中になってしまった。これまでにユダヤ謀略説の本は大量に出版されてきたが、この本はちゃちな謀略本とはスケールも緻密さも違う。著者は大分県に住む一般にはそれほど知られていないノンフィクション作家のようだが、翻訳されていないものまで含め、大量の資料に当たり、史実の裏に隠されたストーリーを緻密かつ大胆に再構築している。その知識の膨大さと構想力に圧倒されたね。

ミツハシ:ほう、シマジさんにそこまで言われると私も読んでみたくなります。

シマジ:読むべきだよ。日露戦争の戦費調達にしても第一次世界大戦の敗戦国ドイツへの多額の賠償請求にしても、世界史の重要局面にユダヤ資本が大きな役割を果たしたのは事実であり、我々が生きているこの世界は当然ながら過去と地続きだ。資本主義の世界においては資本こそが力となり政治を動かす。それは紛れもない事実であり、『20世紀のファウスト』は資本が世界を、そして人々の運命を冷酷に左右するこの時代の恐ろしさを教えてくれる。やはり人生は恐ろしい冗談の連続だね。

 もちろん、資料をもとに再構築されたストーリーには著者の思い込みが入り込む。だが、それは読者が取捨選択をすればいい。著者の見事な包丁裁きを愉しみながら、現代につながる世界史の裏面を学んでもらいたいね。

 お次は『ソラリス』(スタニスワフ・レム著、国書刊行会)を薦めたい。