会社の中でダメな奴だと軽蔑されています
Q中小企業(社員100人程度)に勤めております。悩みがあります。新卒4年目になるのですが私の頭や要領が悪いのです。 会社の習慣で日記を書くのですが、私に対することが書いてあることがあります。営業で同行 した先輩の日記を読むと、「知識が足りない」「母親(お客様)とダメな息子(私)みたいだ」と書かれていました。あとは、「私 に対して周囲の対応がきつくなっている」などとも。そのほか、他の人の日記には私に対するダメ出しが書いてあり、専務も気にしているそうです。みんな優しいのですが、それだけに、こうしたことが書かれていることを知ってとてもショックでした。狭い会社の中でダメな奴だと蔑視されていると思うと視線が怖いです。どうしたらよいのでしょうか。
(26歳・男性)
ミツハシ:読者のみなさまに残念なお知らせがございます。約7年にわたってご愛読いただきました「乗り移り人生相談」ですが、3月いっぱいをもって連載を終了いたします。
シマジ:人生は恐ろしい冗談の連続だが、これは冗談ではない。
ミツハシ:誠に申し訳ございませんが、本当のことです。
恨むならミツハシを恨んでくれ
シマジ:ミツハシが新しい人生のスタートを切ることになってね。3月いっぱいで日経BPを退職するんだ。もちろん、担当者が代わって連載を継続するという手もあるが、「乗り移り」はミツハシが俺にじか当たりをして来てスタートした企画であり、相方がミツハシでなければ成立しない読み物だ。だから、ミツハシ以外と組むつもりはない。というわけで、愛読者諸君、恨むならミツハシを恨んでくれ。
ミツハシ:えーっ、そういう展開ですか。「ミツハシ、長い間ご苦労」とか「これからも頑張ってくれ」とか、そういうのを少しは期待していたのですが。
シマジ:ミツハシ、長い間ご苦労。これからも頑張ってくれ。
ミツハシ:そんな取って付けたような。
シマジ:俺はこれからも「乗り移り」を通じて日本を明るくしたいという気持ちを持っているんだよ。それは、シバレン(柴田錬三郎)先生、今東光大僧正、開高健文豪の3人から薫陶を受けた俺の使命だと思っているからだ。だが、ミツハシが退職してしまうのだから、俺にはどうにもできない。読者諸君、恨むならミツハシを恨んでくれ。
ミツハシ:私だって、「乗り移り」を愉しみにしてきた皆さんの落胆の気持ちを思うと申し訳ない気持ちでいっぱいなんです。せめてもの罪滅ぼしに読者のみなさんと「乗り移り」の7年を振り返る懇親会を企画しました。名づけて「乗り移り人生相談 酒池肉林祭」です。
シマジ:これは俺とミツハシから読者諸君への感謝の宴だ。酒池はもちろん、タリスカーのスパイシーハイボールであり、肉林は我が故郷、一関が生んだお肉の変態千葉祐士が目利きした熟成和牛だ。美酒と美味なるビーフを愉しみながら、乗り移りにまつわるこぼれ話を披露したいと思う。
ミツハシ:こちらからご応募いただけます。参加人数に限りがございますので、お早めにお申し込みください。
シマジ:間違いなく愉しいひとときになるはずだから、期待してくれ。申し込みに間に合わなかったり、東京から遠く離れた土地に住み参加できなかったりする読者は、恨むならミツハシを恨んでくれ。
ミツハシ:もう恨んでもらって結構です。はい、何もかも悪いのは私でございます。
世の中に大量の「乗り移りロス」を生み出すぞ
シマジ:それにしても、全国の悩める善男善女をどうするつもりだ。世に悩み事のタネは尽きまじだぞ。
ミツハシ:「週刊文春」の伊集院先生にお任せしますか。
シマジ:ミツハシ、随分冷たいじゃないか。「乗り移り」は他に比肩するもののない人生相談だぞ。この7年、相談に答えた男女から多くの手紙やメッセージをもらい、また、伊勢丹メンズ館のサロン・ド・シマジに、「乗り移りの回答ありがとうございました。おかげで光が見えてきました」と感謝の言葉を伝えに来てくれた相談者も数多くいた。相談者じゃなくても、「読んで元気になりました」と言ってくれた読者も数え切れない。このままでは世の中に大量の「乗り移りロス」を生み出すぞ。
ミツハシ:「乗り移りロス」ですか。実は私にもそれが起こるのではないかとちょっと心配しているんです。何しろこの7年、毎月一度はシマジさんと4~5時間に及ぶ濃密な時間を過ごし、毎週末3~4時間をかけて「乗り移り」を執筆してきました。それがなくなるというのは何だか張り合いがなくなるようで。
シマジ:そうだろ。なんとか「乗り移り」を愉しみにしている読者の期待に応えられるよう考えようじゃないか。
ミツハシ:そうですね。ただ、私も新しい仕事との兼ね合いもありまして……。でも、「乗り移り」読者も大切にしたいですし。一緒に今後のことを考えましょう。
さて、遅くなりましたが、今週の相談に乗りましょうか。
「もっと現実を直視してもらった方がよくないですか」
シマジ:相談者はきっと大器晩成なんだよ。周りから頼りないと思われているようだが、「みんな優しい」と書いているように、周囲の人たちは相談者が成長してくれることを期待しているはずだ。きっと素直で人柄がいいのだろう。底意地の悪い奴というのは組織の中で嫌われる。相談者はそういうタイプではない。頑張って成果を上げれば、周囲の見かたはすぐに変わる。
ミツハシ:その「成果の上げ方」が問題なわけで。どうすれば相談者は成果を上げられる営業マンになれると思いますか。
シマジ:毎晩寝る前に「俺は会社で一番の営業マンになった」と口にするんだ。丹田に両手を置いて力強く語る。過去形で言うことが肝心だ。天上界の神様は、人間どもの際限のない願い事を叶えるのに多忙極まりない。神様のウェイティング・リストは膨大な長さになっており、相談者が「会社で一番の営業マンにしてください」とお願いしたとしても、超多忙な神様がそれを叶えてくれる保証はない。だから、過去形で言葉にするんだ。
「会社で一番の営業マンになった」という言葉を聞いて神様は慌てる。ん、俺はそんなことをしてやった覚えはないぞ。それなのに、こいつはその気になっている。早く現実にしてやらないとまずいなということになる。かくして相談者はナンバーワン営業マンになれる。
ミツハシ:シマジさんらしい優しいアドバイスですが、この相談者にはもっと現実を直視してもらった方がよくないですか。シマジさんが営業部長だとして、この相談者を部員として使いたいと思いますか。
シマジ:うーん。ちょっと考えさせてくれ。
ミツハシ、厳しいな
ミツハシ:考えるまでもないじゃないですか。シマジさんも現役時代には、自分の編集部を精鋭で固めて、やる気がないと判断した編集者は異動させていたじゃないですか。
シマジ:週刊誌というのは熾烈な戦場だからな。
ミツハシ:それは相談者の職場も同じです。
「私の頭や要領が悪いのです」って何を甘えたことを言っているんですか。生まれつきの能力の問題だから大目に見てほしいとでも言いたいんですか。
相談者は営業日誌に「知識が足りない」と書かれているんでしょ。営業センスはさて置き、業界知識や商品知識なんていうのは努力次第じゃないですか。経験やネットワークの面では先輩たちに敵わないとしても、勉強次第で先輩と同じレベルになれる土俵はあるはずです。
自分にできる努力を尽くした上で、それでもうまくいかないことがあるなら、「どうしたらいいでしょう」という相談も分かりますが、相談者は一体どんな努力をしたと言うんです。幸い先輩たちは営業日誌に、相談者のどの部分がダメなのかを書いてくれているわけでしょ。ならば、相談者はシマジさんではなく、まずは先輩たちに自分は何をすべきか教えを乞い、それを実践すべきでしょう。
シマジ:ミツハシ、厳しいな。
ミツハシ:普通です。
シマジ:世の中にはこの相談者のように弱い人間も多くいるんだよ。そんな相談者に厳しい言葉を投げかける先輩は多くいるはずだから、直接の利害のない俺は優しく励ましてやりたいんだ。
過去形で「会社で一番の営業マンになった」と毎晩口にしていれば、神様だけじゃなく、当の相談者だってそうではない現実との間で、これではまずいと思うはずだ。学ばなければ、努力しなければと焦るはずだ。俺は相談者の自助努力を期待してさっきのアドバイスをしたんだよ。
ミツハシ:……。
シマジ:ミツハシ、なんだその疑いの目は?
シマジさんはこの女と結婚したいと思いますか?
ミツハシ:本当にそんな深謀遠慮があったんですか?
シマジ:もちろんだ。人生は可能性に溢れている。相談者が「会社で一番の営業マンになった」と言い続け、その自分の言葉に恥じない会社員生活を送ろうと思えば、キミは勤め先の社長にだってなれる。まずは言葉にし続けるんだ。
「会社のすべての商品を完璧に頭に入れた」「1000万円の新規契約を獲得した」「2016年度のナンバーワン営業マンになった」。そう言い続けなさい。そこから相談者の成長が始まる。キミはまだ26歳だ。時間はいくらでもある。俺のアドバイスを信じて努力をすれば、少々要領が悪くても愛され、信頼される営業マンになれる。健闘を祈っているぞ。
ミツハシ:いいでしょう。叱るのではなく、褒めてその気にさせて部下の力を引き出すのがシマジさんのやり方ですから。でも次の相談にはどう答えますか?
前に進めるよう私を叱ってください
Q私を叱ってください。パートで実家暮らし、家事が大の苦手で結婚願望はなく、既婚者と気楽な恋愛を楽しんでいます。父はすでに亡く、母も老いてきたので、自立を考えなければと思うのですが、生活のためと腹をくくって結婚すべきでしょうか。自立できるほどの仕事は、今さら考えられません。焦りはあるのですが、目先の快楽に流されて毎日が過ぎ、年齢だけがかさみます。結婚に抵抗がなくなるようなご意見をいただけないでしょうか。それとも、このまま快楽任せの人生でもいいのでしょうか。前に進めるよう、どうか叱咤激励をお願いいたします。
(44歳・女性)
ミツハシ:叱ってくださいとのことです。
シマジ:うーん。
ミツハシ:「結婚に抵抗がなくなるようご意見を」とのことですが、「家事が大の苦手」で「自立できるほどの仕事は、今さら考えられません」という相談者と喜んで結婚したいと思う男がいると思っているんですかね。要するに黙って私を扶養してくださいということでしょ。男を、そして人生を舐めてますよね。
シマジ:ミツハシ、厳しいな。
ミツハシ:普通です。だって、シマジさんはこの女と結婚したいと思いますか?
シマジ:うーん。
ミツハシ:相談者は今日から毎晩「私は家事を完璧にこなす素晴らしい妻になった」あるいは「自立できる素敵な仕事を手にした」と口にするといいでしょう。
シマジ:うーん。
ミツハシ:7年間やっていて初めて分かりましたが、シマジさんが不得意とする相談はこういうたぐいなんですね。
シマジ:俺は清く正しく真面目に生きてきたわけではないから、人を叱りたくないんだ。だから叱咤激励してくれとのご要望だが、激励はしても叱咤はしない。そうだ、相談者は毎晩「快楽任せのまま素晴らしい人生を送った」と言い続けなさい。
ミツハシ:そっちに行きましたか。
シマジ:そして「乗り移り」愛読者の諸君は「乗り移りが装いも新たに戻ってきた」と唱え続けてくれ。
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