俺はこういう話に乗ってくる女が好きだ。

ミツハシ:シマジさん、マジメにやりましょう。

シマジ:大マジメだ。恋は意外性だよ。ヒグマのステーキが好きかなんていきなり質問されたら女は驚く。

ミツハシ:そりゃあ驚くでしょう。というか、危ない奴に認定ですよ。

シマジ:そこが狙いなんだ。「えっ、何この人」と女は警戒する。当然、心拍数も上がる。女をドキドキさせることが恋の第一歩だよ。女が「えっ?」と驚いたようなら、「驚かせてすみません。あなたのステップがすごく素敵だったもので、こんなにキレのいい動きができる人はぜひヒグマの肉を召し上がるべきだと思って」とか何とか説明するんだ。

ミツハシ:意味が分かりません。キレのいい動きとヒグマ肉を結ぶロジックは何ですか。

シマジ:そんなもの何とでも繋ぎ合わせればいい。「ヒグマの肉は良質なタンパク質で、アミノ酸をタンパク質に再合成するビタミン群も豊富なんです。激しい運動で傷ついた筋肉を修復するにはヒグマの肉は最適なんです」でどうだ。

ミツハシ:「でどうだ」って何ですか。口からでまかせじゃないですか。

シマジ:でももっともらしいだろ。そして最後に「実は馴染みのジビエの店があって、昨日、シェフから新鮮なヒグマ肉が入ったと連絡があったんです。滅多に食べられない絶品のヒグマですから、ご一緒にいかがですか」と迫る。

ミツハシ:勝負が早いですね。

シマジ:女がドキドキして混乱しているうちに強引に約束を取り付けてしまうんだ。

ミツハシ:でも冷静な女だったら、「お断りします」で終わりでしょうね。

シマジ:そんな詰まらない女なら断られても構わん。俺はこういう話に目を輝かせて「あら面白そう。ヒグマっておいしいんですか」と乗ってくる女が好きだ。

ミツハシ:シマジさんの女の好みの話をされても……。

どっちに転んでも神様の思し召し

シマジ:だから最初に言ったじゃないか。口説き方に正解はない。俺は俺のやり方を話すだけだとな。

 これで女が乗ってきたら、デート当日にもサプライズを演出する。相談者に秘密兵器を教えよう。「シャンパン・ステージ」という照明器具だ。レストランでシャンパーニュを注文し、店のコースターの代わりにこのシャンパン・ステージの上にグラスを置く。するとステージの中央部のLEDからスケベ光線が放出され、シャンパンの泡を美しく幻想的に照らし出すという仕組みだ。もうすぐ、伊勢丹メンズ館のサロン・ド・シマジで売り出すから、買いに来なさい。

ミツハシ:うーん、演出過剰というか、こっぱずかしいというか……。

シマジ:これしきで恥ずかしがるなんてミツハシもまだまだだな。いいか、人生なんて紙一重だ。「何このキザな男」と思われるか「何だか愉しそうな人」と思われるかも紙一重。そもそも、相談者はいきなりヒグマで女を誘うんだぞ。である以上、意外性と驚きで攻め続けた方がいい。強烈な印象を残し、この男といれば退屈しないと女に思わせるんだ。

 同じ職場で働く女に好意を持ってもらおうというなら、地に足の着いた誠実な人柄みたいなもので女から徐々に信頼を得ていく手もあるかもしれないが、スケベ光線で恋をスタートさせる以上は、速攻を旨とすべし。ちなみにシャンパン・ステージの発光時間は3分だ。この3分間で女をその気にさせろという意味だよ。