これ以上何を望むというんだ

ミツハシ:いま頃分かったんですか?

シマジ:通帳とか印鑑とか、大事なものが家のどこにあるのか全く分からないんだ。メシはこれまで通り外食でよかったが、掃除、洗濯には困った。洗濯機なんて触ったことがないから、何をどうしていいか分からなくてね。ヘンなボタンを押したら、爆発するんじゃないかと怖くて触れることすらできなかった。

ミツハシ:シマジさん、触らなくて正解です。最近の洗濯機は下手に触ると自爆しますからね。

シマジ:やっぱりそうか。だが、そのままではパンツも洗えない。そこで、出入りの気のいいクリーニング屋のおやじに頭を下げてね。「本当に申し訳ないが、パンツや靴下も洗ってくれないか」と頼んだんだよ。

ミツハシ:ハハハハハ。これで奥さまの大切さが身にしみたでしょ。

シマジ:昔から俺が書いたものを一切読もうとしない女房の潔い無関心に敬意を抱いてきたが、よくまあ一度も洗濯機や掃除機を爆破させずにここまで使いこなしてきたものだと改めて尊敬の念を強くした。

ミツハシ:では、相談者への回答は、セックスレスでも夫婦はうまくいく、気にするな、ということになりますか。

シマジ:どちらかがセックスを強く望み、それに応えないことや、嫌々応えることが、夫婦から愛情を失わせ、溝を広げるようなら深刻だが、このケースはそうではないだろう。「妻は私に対して人類愛以上ではないようです」と、奥方の愛情表現の薄さに不満のようだが、愛人がいて、海外勤務で神経をすり減らす相談者は、毎晩求められたら、本当に応えられるのか?それはそれで逆に辛くなるんじゃないかね。

 愛人から求められ、妻からも求められたいというのは、ちょっと欲張りすぎじゃないか。相談者の奥方は「青空が好きな明るい、いつもきれいにしているよく出来た世話女房」なんだろ。世の中には、結婚した途端、大好きだった葉巻を一切禁じられた男もいれば、携帯電話の着信記録をはじめとして何から何まですべて監視されて牢獄の中で暮らす気分を味わっている男もいる。それでも、この女と結婚したのは人生の定めであると運命を受け入れ、試練の結婚生活で己の忍耐力を養っているんだ。相談者は十分恵まれている。これ以上何を望むというんだ。

 奥方の穏やかな愛情を受け止め、人生をともに歩む戦友として、感謝の心を忘れず、しっかりいたわってあげなさい。俺の分までカミさんを慈しんでくれ。

ミツハシ:俺の分までって、奥様を勝手に亡きものにしてはいけません。

「乗り移り人生相談」の単行本『男と女は誤解して愛し合い理解して別れる』と『毒蛇は急がない』の2冊が電子書籍になりました。

『男と女は誤解して愛し合い理解して別れる』

   ■日経ストア

   ■Amazon(Kindleストア)

   ■楽天kobo

『毒蛇は急がない』

   ■日経ストア

   ■Amazon(Kindleストア)

   ■楽天kobo

書籍のご案内

 本コラムの中から特に読者からの反響の大きかったものを厳選して編集したのが「乗り移り人生相談傑作選」です。第一作『男と女は誤解して愛し合い理解して別れる』(2013年11月発行)(2013年11月発行)、第ニ作『毒蛇は急がない』(2014年6月発行)をぜひお手元に!

島地勝彦さんへの質問募集

 本コラムでは、読者の皆様からの仕事や人生についての悩み、質問を募集しております。こちらまでお寄せください。