そういえば、工場見学で面白いものを見た、とい言うか聴いた。葉巻を巻く仕事は熟練を要するが、マスターしてしまえば単純な作業だ。だから退屈する。その退屈をまぎらわすために、朗読の時間があるんだよ。ときおり、小説の朗読を工場内のスピーカーから流すんだ。案内役に聞いたところ、俺が行ったときに朗読していたのは、『モンテ・クリスト伯』だったそうだ。
ミツハシ:モンテ・クリスト(キューバ葉巻の銘柄)の工場だったんですか?
シマジ:いや、違ったはずだ。ただ、多くの工場で朗読が行われていて、『モンテ・クリスト伯』は定番の一つらしい。
ミツハシ:なるほど確かにあの大長編なら、毎回続きが気になって、朗読の時間が待ち遠しくなるかもしれませんね。講談の「清水次郎長伝」や落語の「真景累ヶ淵」なんかを聞きながら仕事をするような感じかな。BGMじゃなく朗読というところが味わい深いですね。
シマジ:陽気な音楽なんかを流したら踊り出してしまうから、朗読にしているんじゃないか。いずれにせよ工場にも文化の香りが漂う話だろ。
そう、葉巻は文化なんだ。だから、メンズ館のサロン・ド・シマジは新宿の汚れた空気に、かぐわしき文化の煙を吐き出し続けているわけだ。そろそろ区長から表彰されてもいいんじゃないかね。相談者も日本の空に文化の香りづけをする活動に加わってくれ。
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