ミツハシ:毎朝ニヤニヤしながら盆栽をいじっているご老人と変わりませんね。
シマジ:まさにそうなんだよ。祐天寺に住んでいた母方の祖父が盆栽愛好家でね。子供心に「あんなのを毎日いじって何が愉しいのだろう」と疑問に思っていたが、俺も結局は同じようなことをしている。
そういえば、子供の頃、夏休みなんかに母と一緒に爺さんの家を訪れると、よく爺さんが母親を叱っていてね。俺は母親が大好きだったから、母を叱る爺さんが憎くて、夜中、床の間に大事に飾っていた爺さん自慢の盆栽にションベンを引っ掛けてやったことがあるんだ。
ミツハシ:ハハハハハ。酷いことしますね。
シマジ:いや、子供だったとはいえ、本当に申し訳ないことをした。俺に恨みを持つ人間がいたとして、留守中のこの部屋に忍び入り、ヒュミドールの蓋を開けてその中にションベンをしたらと思うと、ゾッとする。
ミツハシ:シマジさんにしてみれば、まさに悪夢でしょうね。
シマジ:盆栽にも葉巻にも決してションベンをかけてはいけない。
男の視線を集めるつもりでホテルのバーで喫ってほしい
ミツハシ:相談者は、ホテルラウンジの喫煙コーナーで喫ってもいいか、服装やヘアスタイルはどうすべきか、も訊いています。
シマジ:ホテルで喫うなら、喫煙コーナーなんかじゃなく、バーで喫ってほしいね。バーマンに相談すれば、きっといい葉巻を薦めてくれる。それからファッションについては、せっかく葉巻を愉しむのだから、目一杯お洒落をしてほしい。周りの男たちの視線を集めるつもりで、優雅にシガーをくゆらせてくれ。
そしてシガーの奥深い世界にはまって行ったら、ぜひキューバを訪れてほしいね。キューバはメシはまずいが、日本で4000円の葉巻が900円くらいで喫える葉巻天国だ。ハバナのホテルのベッドサイドには大きな葉巻用灰皿が用意されている。街中どこを見ても禁煙マークなんて見つからない。
キューバの高級葉巻は、浅黒いカリブの娘が自分の太ももに押し当てて巻くという話があってね。それを信じて葉巻工場を見学しに行ったら、工場の中にいたのはむくつけき野郎どもと、小錦のようなオバちゃんばかりだった。旅は人生を豊にするというが、あれは嘘だな。現実というのは悲しく、冷酷だ。旅は美しい幻想を打ち砕き、冷酷な現実を教えてくれる。
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