朝一番で喫うのがドリニダッドのレイエス

シマジ:葉巻の手ほどきを望むということだが、これは言葉で説明するより、実地で教えた方がいいだろう。相談者は土曜か日曜にメンズ館のサロン・ド・シマジを訪ねてくれ。午後2時から喫煙できるから、その頃なら、まだお客も少なく、じっくりと指南してあげられる。火のつけ方、持ち方、喫い方、灰の落とし方、消し方……。手取り足取り教えよう。

ミツハシ:シマジさんの「手取り足取り」は危険なような。

シマジ:余計な心配はしなくていい。

 そうだ、葉巻に興味のある読者のために、最近の俺のお気に入りを教えよう。まず、朝一番で喫うのがドリニダッドのレイエスだ。小さめのサイズながら、濃厚な味わいの逸品でね。2000円くらいで手に入るこの葉巻で脳みそを覚醒させる。トリニダッドはビジアも味わい深く、愛煙している。ロメオYジュリエッタのアネハドスもいいな。これは巻き上げてから5~8年熟成させた葉巻だ。

 ケドルセにも最近凝っている。フランスのタバコ専売公社が位置したケドルセ通りに由来するフランス市場向けのキューバンシガーだ。軽くてコクがあって、初心者でも愉しめるいいシガーだよ。それからパルタガスのセリーDのNo.4とNo.6もよく喫っている。強いアロマを持つフルボディーのシガーで実にうまい。No.6は9センチの短いサイズで、これは最近の流行だね。世の中が忙しくなっているのに合わせてだろう、最近リリースされる葉巻は短いサイズのものが増えている。短い時間で喫える気軽さがいまの時代にあっているんだろうな。

ミツハシ:シマジさんも、時間短縮の波の中にいるわけですか。

シマジ:これでも原稿執筆やら何やらで忙しい日々を送っているからね。

ミツハシ:執筆中は何を喫っているんですか。

シマジ:執筆中はシガーには手を出さない。つい原稿に夢中になって、せっかくのシガーの香りや味に集中しにくいし、キーボードの上に灰を落としてしまうこともある。だから、執筆中はもっぱらパイプだな。

ミツハシ:パイプを挟みながらシガーを1日5本ですか。そこまでの愛煙家はなかなかいないでしょうね。

盆栽にも葉巻にも決してションベンをかけてはいけない。

シマジ:なに、我が鍾愛するチャーチルは1週間に100本の葉巻を喫っていた。俺の財力と体力では、とてもその域には達しない。だが、チャーチルの1/3の量の葉巻でも、こいつらはやたらと手がかかるんだ。これから始めようと思う者は、葉巻が金食い虫なだけでなく、手間のかかる子供みたいなものだということも知っておいたほうがいい。

ミツハシ:どんなふうに手間がかかるんですか?

シマジ:この部屋には8つのヒュミドール(葉巻の保管箱)がある。俺は毎朝この8つの蓋を開け、加湿器に精製水を加えている。葉巻を乾燥から守るためだよ。ヒュミドール内の湿度は場所によって微妙に違っているから、中の葉巻は定期的に場所を変えてやらなければいけない。愛情をかければかけるほど葉巻はうまくなる。だから、1本1本の状態を目と鼻と指先の感触で確かめ、「もっとうまくなれ」と念じながら手入れするんだ。これを毎朝8箱分やる手間と労力たるや。

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