斎藤:なるほど。応募は何社ぐらいあって、その中から何社を選んでいるのですか?

ロー:そういう計算はしていません。いつもいっぱいなので、ウエイティングリストがあります。たぶん、セントルイスでも、もう数社が待っているでしょう。ボストンはたぶん数十社というような感じだと思います。

斎藤:退居してもらうこともあるのですか?

ロー:ありますが、少ないですよ。アイデアがダメというより、人の活動がダメなケースですね。アイデアがダメな場合は自発的に退去します。お金がなくて家賃が払えなくなりますから。

斎藤:なるほど。その取り組みを、東京でも展開できないか、検討しているということですね。ローさんは日本に何年か住んでいた経験もお持ちですが、日本の状況はどのように見えますか?

歴史的には日本人はいい起業家だった

ロー:オランダと似ていて、研究レベルはすごく高い。しかし、スタートアップの数が若干少ない。どっちかというと、そういう環境が私は好きです。

 振り返ってみると、歴史的には日本人はすごくいい起業家だったんです。世界の大手何十社かは日本企業です。例えばトヨタ自動車や、ホンダはスタートアップだったんですよね。だから、世界のトップレベルのスタートアップを出せる国です。

斎藤:そうですよね。

ロー:しかし、このところは、大きな会社があまりに成功しているので、小さな会社が成功する余地が少なくなっているのでは。森で、大きな木が育ちすぎて葉をたくさんつけてしまうと、小さな木まで太陽の光が届かなくなってしまう、そういうイメージです。

斎藤:なるほど。小さな木は光合成が十分にできないと。

ロー:ただ、小さな木の役割は大きいのです。米国では、毎年、既存の大企業は約100万人の雇用機会を失っています。つまり、大企業はどんどん小さくなってきているのです。一方で、スタートアップは、年間で平均300万人の雇用機会をつくっているんです。米国では、両方を足しこむことで200万人の雇用機会が純増しているわけです。

 日本は比較的に大手企業が経済に占める割合が大きいでしょう。だから、スタートアップの寄与度が低く、少しアンバランスになっているんです。

斎藤:なるほど。小さな木が育ちやすくするためには、何が必要でしょうか。

ロー:1つは、投資が集まる仕組みづくりです。特に、上流からお金を流すために、例えば政府のお金を使ってベンチャーファンドをつくる。米国やほかの国でもよく見られる政策です。

 もう1つは、小さな会社が自分の製品、サービスをもっと簡単に売れるようにする。例えば米国の連邦政府は、調達品の何パーセントかは中小企業から購入することになっています。ところが、最近はどっちかというと中小というより新しい企業を重視するようになってきました。

 昔、米国では中小企業が経済の強さだと考えられていました。しかし、中小企業は大きく2つに分かれるのです。1つは、レストランやクリーニング店などの古くからあるような業態の中小企業。これは大切ではあるのですが、実は雇用機会を増やしてはいないのです。一方で、新しい企業は雇用機会を増やしている。だから、米国の政策は中小企業にフォーカスしているというより、新企業の育成にフォーカスしているんです。雇用の柔軟性、海外の優秀な人材を雇用すること、そして資金へのアクセス、日本でももっと政策を考えていかなければならない。

 それから、アントレプレナーシップを教育制度に取り入れることも大切です。若い人がみんな大きな会社で働きたいと思うようになると、新しい会社をつくるのは難しくなる。米国では、一番優秀な人はだいたいスタートアップをやりたがります。しかし、日本では、優秀な人は政府か大企業に行ってします。これを変えないと強いスタートアップは生まれてこない。