斎藤:どのようなシステムになったのですか。

松田:先ほど申し上げたように、属人的な部分を極力取り除き、誰がやってもミスをしないような仕組みに作り替えたのです。例えば、紙の伝票を基に計量していたときは、伝票の見間違いで注文と違う計量をしてしまうミスがありましたが、伝票を電子化することで伝票の数字と計量結果が違うときは警告を出すといった仕組みを用意しました。

 また、ドライバーも勤務態度がよくない人には辞めてもらい、配送完了時には必ず報告するなど、手順を明確にして作業ミスを減らすことを徹底しました。もちろん本社も現在の場所に引っ越し、物流倉庫の一角をオフィスにしています。

 こうして、社員数は大幅に減り、正社員が12人だけになりました。あとはアルバイトとドライバーが30~40人ほどです。かなり身軽になって組織は筋肉質になりましたね。販売管理費は従来の3分の1以下になりました。

本社オフィスがある物流倉庫前に立つ斎藤事業統括本部長(左)と松田社長(右)(写真:菊池一郎)
本社オフィスがある物流倉庫前に立つ斎藤事業統括本部長(左)と松田社長(右)(写真:菊池一郎)

会社の体質を徹底的に見直した

斎藤:会社の体質を徹底的に見直したわけですね。

松田:そうです。14年頃から、3年をかけて課題を1つひとつ解決してきた感じですね。特別な戦略を掲げたわけではなく、マスを1つずつ埋めるようにコツコツとやってきました。やり続けるのはけっこう大変でしたね。

斎藤:ベンチャー企業の経営者は成長スピードを追い求めるものですが、松田さんは時間をかけてじっくりと組織の体質強化に取り組んできた。

松田:私も最初はスピードを求めましたが、やってみて、食材の流通というビジネスは少しずつしか伸ばすことができない仕事なのだとわかりました。多額の資金を投じれば一気に拡大できるというものではない面があります。

斎藤:現在の社員とは、意識やビジョンの共有ができていますか。

松田:以前は急速に採用を増やして失敗しましたから、今は慎重に面接をして会社の考え方をよく理解してくれる人を採用しています。必要がない限りは極力人を採らないことも意識しています。

 今は事業拡大を求めつつも、仕事の質を高めることにより集中しています。拡大してから質を上げるのは難しいですが、質を高めながら大きくすることはできますからね。

斎藤:今後に向けた最大の課題はなんでしょうか。

松田:1都3県で、もっとお客さんを掘り起こせると思います。そのためには、品揃えも配送も含めてトータルの質を上げないといけません。例えばすしの名店、すきやばし次郎が八面六臂に食材を注文していただけないのは、品質がまだ十分ではないからでしょう。しかし、10億円を投じても品質はすぐには上がりません。名店の求める品質と価格を恒常的に実現できるためには努力し続けなければなりません。どうしても時間がかかるのです。

 我々は、八面六臂を打ち上げ花火的な会社にしたくはありません。食は日々の生活そのものなので、それを支えられるしっかりした仕組みと土台を持った会社になりたい。食材の流通は厳しい仕事ですが、やり続けなければなりません。地道にやり続けることが、後続に対する参入障壁となり、競合に勝つ唯一の道だと思っています。

(構成:吉村克己、編集:日経トップリーダー)

破壊的イノベーションの時代を生き抜く処方箋

 数多くの企業の新規事業創出を支援してきたトーマツ ベンチャーサポートが蓄積したノウハウをまとめた1冊、『実践するオープンイノベーション』が好評販売中です。

 デジタル技術の大きな発展により、世界では従来からの業界の常識を覆す新しい企業が次々に登場。タクシー業界ではUberが、ホテル業界では宿泊予約サービスAirbnbが「破壊的イノベーション」を起こしています。

 大きな変革が起きる中、日本企業も生き残りをかけて「オープンイノベーション」に取り組んでいますが、これまでの成功体験を捨てられず、イノベーションにつながっていないケースが多いのが実情です。

 なぜ、オープンイノベーションがうまく進まないのか。そのカベを打ち破るには、経営者や新規事業担当者は何に取り組むべきなのか。トーマツ ベンチャーサポートが持つ知識をたっぷり紹介。併せて、先進企業の新規事業担当者によるインタビューも掲載しています。

詳しくはこちらをご覧ください。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。