斎藤:そこから数年で、鮮魚の配送が急成長しました。
松田:当初は、お客様に専用アプリを組み込んだiPadを無償で貸与し、そこから注文できるようにしました。すると、顧客数がどんどん増え、14年には食材を届ける飲食店が1000店を突破。当時は16年中に1万店まで拡大すると豪語していました。
ベンチャーキャピタルなどもこの成長を評価してくれて5億円近くの資金を調達し、新宿区に立派なオフィスを構えてシステム投資をし、人材もかき集めました。大手企業の物流部長や技術部長など年収1000万円級の人材を何人もスカウトし、ITエンジニアも10人以上採用しました。ピーク時には社員が50人を突破しました。
今考えると、お金の使い方を全くわかっていなかったですね。あんなオフィスを借りたりする代わりにやるべきことはいっぱいありました。
会社が間違った方向に急旋回
斎藤:資金の使い方のどこに問題があったのですか。
松田:調達した資金で集めた人材の多くは活躍してくれるどころか、結局何もできなかった。そもそも食品流通という仕事の現場にあまり興味がなく、数字を見てビジネスを考えるばかりで現場に一切行こうとしないのです。お客様に会って話を聞くわけでもありません。
また、我々の仕事は午前2時まで注文を受けますから、深夜勤務があることはやむを得ない面があります。注文を受けるため社員は午前2時まで待機しなければなりません。午前2時になると次はバイヤーチームが出勤し、買い付けを行う。一般の社員やアルバイトも朝6時出社で、商品のピッキングや梱包をスピーディーに行わなければなりません。そうしないと、午後3時までにお客様への配送が終わらないからです。
斎藤:食品流通を変えるという使命感がないと、そうした出勤時間を続けるのは大変ですね。
松田:そうなんです。だんだん会社に対して不満を持つ社員が増えてきて、会社全体が変な方向に曲がり出しました。あるとき、午前2時という締め切り時間をわずか10秒ほど過ぎた時に注文が入ったのですが、そのときの担当者が、もう締め切りを過ぎていると判断して注文を断ってしまったのです。それは創業当時から支えてもらっている大得意先からの注文でした。
慌てて謝りにいくと、「こんな仕事をしていたら会社をつぶすことになるぞ」と言われました。その言葉を聞いて、「うちはなんてダメな会社になってしまったのか」とはっきりわかったのです。
斎藤:会社を建て直すために、どんな手を打ったのですか。
松田:役職にかかわらず全員を、鮮魚などを扱う現場にも行かせることにしたのです。その時点で、現場を嫌う者は次々と辞めていきました。
大事なお客様を怒らせてしまったようなミスが起きないよう、受注のプロセスを徹底して見直しました。そのうえで、より少ない人数で受注作業ができるように不要なプロセスの排除も進め、その分、素早い配送や品ぞろえの充実のために人材を振り向けるようにしました。
同時に、受注システムも全面的に見直しました。実際の現場を見ずにエンジニアが頭の中で組み立てていたシステムを改め、食材の受注から倉庫でのピッキング、物流まですべてのシステムをゼロから作り直しました。これで、責任者を含めて従来のエンジニアは全員が辞めました。

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