インターネット経由で様々な食材を首都圏の飲食店に販売する八面六臂(東京・中央)。「料理人向けのEC」というモデルで資金調達に成功し、一時は社員数が50人を超えるまでに急拡大した。しかし急拡大により、食材流通の現場に立たず、本社で現場をよく理解せずに仕事をする社員が急増して問題が続出。松田雅也社長はどうやって組織を立て直したのか、その経緯を聞いた。(前編はこちら)
(聞き手は、デロイト トーマツ ベンチャーサポート事業統括本部長、斎藤祐馬氏)
斎藤:松田さんは銀行勤務からベンチャーキャピタルを経て起業されましたが、当初は「食」とは関わりがない事業を手掛けていたのですね。

松田:2007年に26歳で電力事業者と需要家を仲介する会社を立ち上げました。しかし、当時は時期尚早で全く顧客が広がらず、運転資金を確保するために携帯電話の販売代理店をしていました。
そんなとき、銀行員時代の知人にある物流会社のIT関連子会社の設立を手伝ってほしいといわれて、その後、その会社の取締役になりました。自分の会社をいったん休眠させて、新しい会社でITにより物流を効率化するソリューションの開発に取り組み、事業は軌道に乗りました。
斎藤:何をきっかけに、食の分野に進むことにしたのですか。
松田:ITによる物流の効率化という仕事をする中で、水産物の流通に携わる人と知り合ったのです。仕事の進め方などを聞くうち、随分遅れている面があると感じました。これまで身に付けたITと物流のノウハウを水産物流通の世界で生かせないかと思ったのです。
再び独立して、自分の立ち上げた会社に戻り、水産流通について調べ、あれこれ考えました。2011年に社名を現在の八面六臂に変え、手探りで食品を扱う事業を始めました。
飲食店向けEC事業で急成長
斎藤:「食」とは畑違いの分野から参入した当初、鮮魚の知識をどのように身に付けたのですか。
松田:まずは自分で調べ、より専門的なことは、お客様や飲食店の料理人に聞いたりして勉強しました。皆さんは職人で、1回聞いただけでは重要なことは教えてくれませんから、何度もしつこく聞き続けました。注文いただいたお客様には配送ついでに質問をして、届けた魚についていろいろと教えてもらいました。
優れた料理人ほど科学的な知識もあり、経験だけでなく、理論的にどういう商品がいいのか、どうすればおいしく調理できるのかをよく知っていました。
魚についてだけではなく、鮮度とは何かとか、江戸前と関西それぞれのおいしさの感じ方とか、食に関する知識を自分なりに納得するまで調べ続けました。
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