斎藤:食材の仕入れは安定的ではありませんからね。
松田:ですから、我々は、地方から食材を直接取り寄せることはもちろん、築地市場や大田市場など中央卸売市場で仕入れることも否定していません。否定しないどころか、積極的に活用しています。
大きな市場で仲卸から買うのは簡単ですが、大卸と呼ばれる大手の荷受業者と取り引きするのは大変です。我々も3年前までは相手にされませんでした。流通量が少なかったからです。
つまり、売る力がないと中央卸売市場との取り引きは難しい。そのためには地道に売る力を身につける必要があります。資本力だけで一朝一夕には実現できないのです。
斎藤:地方からの直接仕入れの方が、中央より安く食材を仕入れられそうに思いますが。
松田:それは「産直幻想」ですよ。食材は産地の方が安いとは限りません。地方の産地では基本的に生産者との相対取引なので、鮮魚の場合なら、水揚げ量が少なく、産地の需要が大きければ浜相場は高くなります。ですから、同じ魚でも築地市場の方が安いということもあります。その使い分けが大事なのです。
ただし、価格だけが重要なのではありません。地方には優れた食材がたくさんあります。そうした食材は都市部ではあまり知られていません。当社のバイヤーたちは地方からの仕入れルートをいくつも持っており、各地のおいしい食材を季節に合わせて仕入れています。こうした地方との関係づくりはシステム化できないので、物流システムとは違い、いい意味で属人的に進めています。また、地方の水産市場ともネットワークを築いて、各地の魚の水揚げについて情報を入手して適切な場所から仕入れるようにしています。当社の仕事は、地方の食材を首都圏で供給する“地産都消”の仕組みと言えます。
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八面六臂は鮮魚から青果、精肉まで幅広い食材をインターネット経由で飲食店に販売する。写真はその一例で、朝〆で鮮度が高いイシガレイ、皮に縞模様があるイタリア原産のナス(産地は千葉) |
生鮮食品流通の存在意義
斎藤:八面六臂の仕事は地方の活性化にも貢献しているのですね。
松田:水産品などはサイズが小さかったり、水揚げ量が少なかったりすると規格外の商品として、ただ同然で売られたり、廃棄されたりします。しかし、個人店のオーナーは規格外かどうか、数が十分あるかに関係なく、旬のおいしい魚を求めている人が多くいます。
実はニーズがある食材が各地にあるのに、個人店のオーナーにその情報が伝わっていなかったケースがたくさんある。我々がその間をつなぐことで、新たな食材を飲食店に届けられるようになりました。ですから、地方経済にも多少の貢献ができていると思います。
斎藤:そこでは、八面六臂の役割は大きいですね。
松田:「食」は、生産者、流通、料理人(飲食店経営者)、消費者によって成り立っています。その中で、漁師や農家などの生産現場と、消費者の需要には極めて大きな変動があります。その中で、生産者が食材の生産に、料理人が調理(店の経営)に安心して集中でき、消費者においしいものを届けられるように需要と供給のバランスを調整するのが我々、流通業者の役割です。
人の勘だけに頼っていては、その重要な役割を十分に果たすことはできません。当社は生産量、天候、売れ行きなど様々なデータを基に需給を予測するシステムとオペレーションを持っており、その組み合わせこそ、他社がまねできない強みだと思っています。
(後編に続く、構成:吉村克己、編集:日経トップリーダー)

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