ロー:なぜかというと、この地域は集中度が非常に高いからです。カリフォルニア全体でも集中度はかなり高いけれども、特にサウス・オブ・マーケット地区とかパロアルト地区など、複数の地区は集中度がものすごく高いのです。
 まず大切なのは、集中度です。郊外の1つの地区にスタートアップが集中していると効果が高まります。この状況を分かりやすく分析しているのは、 米ブルッキングス研究所がこのほど発表した「The Rise of Innovation District」というリポートです。この報告書によれば、多くのイノベーションは世界の大きな都市の近郊で起きているのです。

 すると、その地区に何か中心的なビルが生まれてきます。このビルには多くの会社が入居しているわけです。ここには、かつてのジョブズ氏のように成長志向の強いスタートアップが集まってきているわけです。
 私たちのセンターでは、例えばAndroid社が産声を上げました。実は創立者は2人でしたが、200人規模になるまで、ウチのビルの中にいました。200人以上のスペースがなかったので、隣のビルに移りましたけどね。彼らにはインキュベーターは不要だったのです。

斎藤:ええ?

インキュベーター不要の人が集まってくる

ロー:インキュベーターが要らない人が、我々のセンターのような場所に集まるんですよ。

斎藤:なるほど、なるほど。

ロー:だから、こうしたビルを「イノベーション・センター」と呼ぶことにしました。他にいい言葉が思い付かず、とりあえず適当に作った言葉なんですよ(苦笑)。
 基本的には、イノベーション・センターというのは、急成長するスタートアップがたくさん入居しているビルのことです。そのビル自体も、例えば10万㎡とかなり大きいので、1社だけで数千㎡のスペースを使っているケースもあります。すでに、米国ではケンブリッジとボストン、マイアミに施設を設け、このほどセントルイスにもオープンしました。欧州でもオランダのロッテルダムに設けています。

 我々は、16年にわたりこの施設を運営してきました。世界的にはまだ新しい概念のものなのですが、すでにいくつか面白い効果を見出しました。
 まず、たくさん強い企業家が同じところにいれば、お互いに助け合います。隣同士仲が良くて、お互いに知り合いを紹介し合う。それが輪を広げていくのです。

斎藤:そうですね。

投資家も大企業も集積

ロー:いいアイデアだよと思えば、投資家を紹介してくれる人も出てきます。この紹介がスタートアップの成功と失敗の境を分けることにもなりかねない。成功している人から紹介された案件というのは、投資家もしっかりと耳を傾けてくれるものですから。
 そうしていると、大きなイノベーション・センターが形作られてきます。すると、2番目に、そのビルの中に投資家が自然と引っ越してきます。実際、我々のセンターにはベンチャー投資会社が15社集まりました。その中には、10億ドル規模のファンドが3社もあるんです。彼らからしてみても、オフィスを置くなら、スタートアップがたくさんあるところの方がいいのです。当然ですよね。

ローCEO(右)と聞き手の斎藤・トーマツ ベンチャーサポート事業統括本部長
ローCEO(右)と聞き手の斎藤・トーマツ ベンチャーサポート事業統括本部長

 3番目に集まってくるのは、大手の技術系企業なんです。実は、彼らもスタートアップの近くにいたい。というのは、いつもイノベーションを探しているわけですから。それに出合うチャンスがふんだんにあるエリアを求めているのです。
 例えば、ボストンで私たちのビルに最初に入った会社のリストはすごく面白い。アップル、ツイッター、フェイスブック、アマゾン、グーグル、ボーイング社――。こうした名だたる企業が、ボストン地区で最初に作るオフィスを我々のビルの中に入れたんですね。これは偶然ではないでしょう。
 我々の魅力は、スタートアップが集積していることだけですよ(苦笑)。だから、例えばアップルの担当者がボストンでスタートアップの分野の知り合いを何人も訪ねているとしたら、結局、我々のビルに何度も来ることになる。だったら自分たちの事務所をこのビルに開いたほうが手っ取り早い、というわけです。
 アマゾンは、まず1人で入居しました。それが、3人になり、気が付くと80人に。もうスペースがないから隣のビルに移って今は700人になりました。フェイスブックもアップルも同じパターンです。
 ただ、我々が特別なことをやっているわけではありません。基盤をつくればみんなが集まるというパターンですよ。

斎藤:なるほど。

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