入山:大企業にいてほしい人材の条件に「巻き込み力があること」とおっしゃっていましたが、具体的にどういう人でしょうか?
斎藤:ビジョン、数字、政治力の3つを兼ね備えている人です。気持ちの面で共感できるストーリーを生み出せること。頭で理解できる戦略をロジカルに語れること。そして、打算でも参加した方が得をすると思わせるプラットフォームを構築できることが大切ですね。
物事が好転する前って、一時的に後退したり悪化したように見えたりするじゃないですか。新規事業を軌道に乗せるまでも同じで、いわゆる「Jカーブ」の底を乗り越えるとき、協力者を募って反対勢力を説得するためにこの3つが必要なんです。底の段階では儲けるよりも、寝技を使ってでも潰されないことが大事。今までの日本企業が一番弱いところだと思います。
「Morning Pitch」の登壇者は75%が大企業の出身者
入山:ベンチャー経営者にとっても必須の能力ですよね。大企業出身の起業家は日本社会の構造を熟知していて「物事は人間関係で決まる」というのが分かっているから、根回しも上手い。大学を卒業したばかりの若い起業家が「とにかくまっすぐやります!」となると、大企業とうまく付き合えなかったり、巻き込めなくておしまいになる、というケースが多くないでしょうか。
斎藤:実は「Morning Pitch」で登壇している会社の75%は大企業出身の経営者なんですよ。
入山:それは驚きです。伝統的な日本の企業文化と起業家マインドのように、2つのフィールドでそれぞれ強みや深み、得意分野を持っていて、その間をつなげられる人材が強いということですね。経営学的には「バウンダリー・スパナー」、つまり「境界をつなぐ人」といいます。「H型人材」という言葉もあります。Hという字の両側の縦棒を真ん中の横棒でつなぐという意味です。1つだけ深く知る専門分野がある「T型人材」では生き残れない。
VCのWilでCEOを務める伊佐山元君が好例ですよね。ソニーとの合弁会社Qrioを立ち上げ、スマートフォンからドアロックを開閉するなどのIoT(モノのインターネット)商品を開発しています。あれだけの事業をなぜ運営できているかというと、ある経済誌のオンライン版編集長によれば「伊佐山君は日本興業銀行の出身だから」だそうです。たとえ大企業のトップとツーカーであっても、ビジネスの話を本部長や取締役などの頭越しにはしない。しかるべき順番で根回しをして、最終的にトップに届けます。興銀出身者としての根回し能力があり、シリコンバレーで上り詰めた経験もあるという意味で、「H型」と言えますよね。
(構成:名嘉裕美)

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