斎藤:工作機械の知識はあったのですか?
高野:家業を継ぐつもりはなかったので、そのとき初めて旋盤に触りました。父に使い方を教わって操作してみると、1つ満足できるものができても、2つ同じものが作れない。自分はそもそも職人じゃないし、自分でこれから旋盤の使い方をマスターしている場合じゃない。やはりプログラミングを勉強して機械を使って自動で作る必要があると思ったんです。
ちょうど1台、最新の工作機械が空いていたんです。当時世界最速で加工できる機械なんですが、すごく扱うのが難しい。父が一番性能がいいものを入れたのはいいけど、使い方を勉強する時間もなく、ほったらかしになっていた。
そこで、これを使ってみようかと機械メーカーに問い合わせたら、絶対無理だと。素人では3年かけても使えるようにならない。その機械メーカーに住み込みで1年間勉強するなら、使えるようにして帰しますと言われました。そんなことをやっている場合じゃないと。
最初は本当に用語も何も分からなくて、「ミーリング加工って何?」みたいなところから、分厚い取扱説明書を片手に独学して、最低限のところだけ3カ月で動かせるようにしたんです。機械メーカーも驚いてましたけど、そこから開発を始めていったんです。
2008年の2月に会社をつくり、08年の5月には開発をはじめた。他社の権利を侵害しちゃいけないと、とにかく特許を調べまくって、11月頃に試作品ができました。その時点で84%ぐらい節水できました。

斎藤:16%の削減じゃなく、減る分が84%ですか。
高野:はい。試しに自分の工場でテストしたら、いい結果が出ていた。これはいいと思って、兵庫県のある公立小学校でテストをさせてもらったんです。プールの横にある蛇口に付けてみると、蛇口をひねっても水が出ない。それで隣の蛇口をひねってみたら、赤さびで濁った水が勢いよく出てきた。しばらく使っていなかった古い水道管がさびていて、それで節水ノズルの穴が詰まってしまったんです。
なるほど、こういうことが起こるのかと気付いて、水質の悪いところでも使えるようにまた設計のやり直しです。もうずっと食事のときも、トイレに入っているときも、風呂に入っているときも、寝る間際も24時間どうすればいいか考えていました。すると、ひらめくタイミングがある。それは、ほとんどが早朝なんですが、1~2分後には忘れてしまうので、常に枕元にノートと鉛筆を置いて、そのひらめいた絵を忘れないうちに描くんです。それを実際に作って、あらゆる形を考えました。
ですから、Bubble90という製品は、今の形状がベストです。違う形にしようとすると、必ず性能が落ちるところまで考え抜きました。そして、もちろんBubble90は特許を取っていますけど、それをすり抜けるために違う技術と構造で作った場合の特許まで取ってあります。
次回は、独自に開発した節水ノズルをどうやって売れる商品に育てたのか、そしてどのように販路開拓を実現したのかを聞きます。
(構成:藤野太一)

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