「プランB」を用意できない日本
神津:福島第一原発に津波が来る可能性について一度、有識者の会議で議論がされたことがあるんです。でも、最終的には「そうはいっても津波はこないだろう」と、結論付けられてしまった。もし津波が来ることが想定の範囲内に入っていれば、復旧電源を下に置くなんてことはしなかったでしょう。こういうことは、他の場面でもたくさんあるんじゃないかと思います。
藤田:ありますね。日本の政府官僚はシナリオをつくるのがすごく下手だと感じます。災害や事故に対処するときは、起こるか起こらないかという確率を考えるのではなく、シナリオを状況に合わせていくつか用意しておき、最悪の時はこう、まだそうでもないときはこう……と準備しておかないといけないんです。
森田:いわゆる「プランB」というやつですね。本来の計画や作戦がうまく行かなかった場合のバックアップを用意しておく。たしかに日本は、藤田さんがおっしゃるとおり最悪の事態が起こった時に、被害をいかに最小化するかを考えるのが、非常に下手です。例の国民保護法で、北朝鮮が攻めてきた時にどうやって民間人を避難させるかという話が出たときも、それは都道府県の責任でやると。人口が少ないある県でも、全員を避難させるには、バスを何十台もフル回転して3~4日かかるというのが、シミュレーションの結果だそうです。その間に攻めてきたらどうするのかという想定は、なぜかしない(笑)。
山本:社会保障問題は、もう負けが見えている戦争です。負けるにしてもどう被害を少なくして負けるかを考えなくてはいけません。
藤田:日本では「トリアージ」の考え方ができないんですよね。
森田:そうですね。トリアージは、フランス軍が考案した、患者の重症度に基づいて治療の優先度を決定し、選別する方法です。
藤田:助かる人から優先的に助ける。重傷な人は後回しにする。僕らの常識からすると反対だけど、危機的状況ではそれが一番被害を小さくできる可能性があるんですよね。
森田:そうです。負傷した兵隊が野戦病院に運ばれてきた時に、ほっといても死なない人、助けようとしてもダメな人、この両方は排除する。そして、治療すれば助かるけど、ほっとけば助からない人に全医療資源を集中的に投入する。こういう発想です。誰がどの状況にあるかひと目で分かるように、それぞれ症状が軽い順に、青、黄、赤の札を貼る。しかし日本ではなぜか、赤の一番重症な人に医療資源を投入する。そして、助からない人用には「黒」というもうひとつの札が用意されているという……。
山本:笑えない現実がここに。本来とは違うかたちで輸入されているんですね。
医療制度の危機、あと2年が勝負
森田:韓国では、2016年9月の慶州地震ではパニックになったそうですけど、北から攻められた時にどうするかということについては、プランも心構えもできているんですよ。日本も、プランはあるようですが、このあたりはもう少し緊張感を持っていいんじゃないでしょうか。そして、北朝鮮からの侵攻よりも差し迫った危機は、医療保険制度の破綻でしょう。それに対してのプランは早急につくっておかないとまずいです。
藤田:医療費は確実に上がっていきます。僕ら団塊の世代は10年もしないうちに、75歳の後期高齢者になります。後期高齢者の罹病率は高い。医療費は今から15兆円~20兆円増えることも考えられるんです。いったいこれを誰が払うのか。そういう状況では、僕ら団塊の世代がもうお役御免だと切り捨てられるかもしれない。その、助ける、助けないの線を引く役を誰かが担わないといけない。それは、はじめの方で森田先生がおっしゃったように、政治家の役目です。その覚悟がある人しか、これからは政治家になろうとしてはいけないと思います。
山本:セーフティネットが破綻した時のプランBを、野党側から出していくべきですよね。それがあるからこそ、何かあった時に与党の責任を追求し、代替案として提示できる。
神津:そこは連合も支援していくところだと考えています。
森田:もしかしたら、医療制度よりも、国家財政が破綻するほうが少し早いかもしれませんね。
山本:2019年には破綻するという話があるとかないとか……。
森田:旧ソ連が崩壊したときのように、突然デフォルトでがくっとくることはないでしょう。急カーブをきって、下げていかざるをえない。それでも、相当国民の間にショックが走るでしょう。2年間のあいだに、セーフティネットを用意できるか。それが日本の崩壊を防げるかどうかの鍵になりますね。
(了)
(構成=崎谷実穂)

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