教育こそ最大のセーフティーネット

木下:撤退戦で数年かけて集落を少しずつ小さくしていく際には、ハードランディングにならないよう注意を払わないといけません。そして、撤退戦するべきところで地方創生を無理やりやると、正直ほとんど無駄金になります。そのお金は適切な社会保障や、移住のサポートにあてる。そういう配分が必要です。それなのに、社会資本整備を大幅にやったりしてしまうんですよね……。社会資本を作っても、もう使う人がいないんですよ。

藤田:長期スパンで見た社会の一番大きなセーフティネットは、やはり教育じゃないでしょうか。

神津:そうですね。僕らは「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けた政策パッケージで、「働くこと」につなげる5つの橋と言うものを考えています。そのひとつ目が「教育と働くことをつなぐ」なんです。すべての子どもたちに学ぶ機会を保証する、学ぶ場から働く場への円滑な移行を支援する、などがその具体的な内容です。

藤田:連合には教育を社会の成長原動力として位置づけ、そこに力を注いでほしいですね。働けない人、賃金の低い人の子どもたちが、十分な教育が受けられないという状況はまずい。格差を拡大、固定化することにつながりますから。子どもは常に社会が教育していくという、北欧的な考えかたを取り入れるべきだと思うんです。民主党が政権を取っていた3年間でやった、ほとんど唯一といっていい良い政策は、高校の授業料無償化ですね。

奨学金の返済額は収入で差をつけてもいい?

森田:大学の奨学金返済問題も、北欧諸国に学ぶところが大きいでしょう。基本的に一律給付でなく、きめ細かく所得に応じたかたちでコントロールしているはずです。日本もそれを本当にやるなら、ようやく動き始めたマイナンバーが活用できるでしょう。消費税をある程度上げて、その代わり所得に基づいて給付をするというかたちでセーフティネットを張る。そのときに一番有効な社会制度、政策はどうあるべきかという議論が積極的にされるべき。軽減税率をどこまでやれるか、なんていうのは、ヨーロッパなどではとっくに終わった議論なんですよね。

木下:教育は一番大きな問題ですよね。地方では、義務教育も厳しい状況です。なぜなら義務教育は、従来の非常に高コストな仕組みを前提としているから。青森のある町を車で移動していたとき、地元の人が、道路沿いに見えた3つの小学校はすべて今年度で廃校だ、と教えてくれました。大きな校舎、プール、一定数の教員などの条件が、そもそも子どもがたくさんいることを前提としています。子どもの数が減った瞬間に学校自体を閉めてしまうというのは、非常に乱暴。もっと段階別で、細やかに対応してもいいのではと思うんです。

山本:それぞれの学校に先生を配属できないなら、インターネットを活用し、遠隔でいくつかの学校でまとめて授業をおこなってもいいわけですよね。

木下:そうなんですよね。また奨学金に関しては、稼いだ金額に応じて返済するという仕組みを導入したらいいのではないかと考えています。莫大な成功を収めた人も、毎日の生活にも困っている人も、同じ額を借りたから同じ額だけ返済するというのはどうなのかと。森田先生もおっしゃったようにマイナンバーで管理して、全体の所得に対して1%払うとか、そういうルールをつくったらどうでしょうか。そうすれば、貧しくても教育を受ける保証がされる。さらに大学を出て伸びた人のお金は、次の世代に使っていける。もうちょっとリレー方式でお金がまわれば、可能性が広がると思います。

山本:今はリレー感がなくて、もらったらもらったでそのままですからね。さて、セーフティネットを張ったものの、セーフティネットごと吹っ飛びかねないという状況に陥った時どうすればいいか。おそろしいことですが、ここも考えなければいけないと思います。どこから優先して復旧していくかというロードマップを用意しておかないと、破綻した後で大変なことになってしまう。支給が急にストップすると、医療サービスが受けられなくて慢性疾患の方が亡くなるなど、人死が出る可能性もあります。

森田:今は高額療法費制度というのがあって、所得に応じて月額5万7600円~25万2600円の負担でいいことになっていて、それを超えた場合は公費でまかなうということになっています。でも、最低額の負担もできない人がかなり多くなってきている。そしてその人達が受診を抑制するから、生活習慣病の悪化が起こっているといわれています。そういう人たちをきめ細かく拾っていくには、データが足りないんですよね。セーフティネットが吹っ飛ぶ前から、見殺しにされている人がいるのが現状です。

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