対立を煽るのではなく、わかりやすく

神津:生産性の問題は、労使関係と非常に関わりが深いんですよね。日本の労働組合の組織率はすごくいびつで、圧倒的に大手が中心です。1000人以上の企業では組織率44.3%、でも100人未満だと0.9%。これは、戦前の産報(産業報国会)体制が淵源にあるからです。その骨格があったから、戦後GHQが労働組合作るのは当たり前だと言った時に、わっと雨後の竹の子のように組合ができた。生産性の話は、民間の労働組合ではかなり前向きに受け入れたんですよ。でも、中小零細企業には組合がない。だから、生産性を上げようというバネ力が労使関係のなかで働かない。大手の労使関係のなかではいろいろ工夫されてきたけど、中小ではなかなかそういうことがない。すると、付加価値も向上しない。大手と中小の間で、生産性においても格差が生じてしまったんです。

森田:日本は企業別組合でずっときています。それが、高度成長期に労使関係を良くしたところもあるけど、企業の分野によって差が出たときにまとまりがつかなくなってしまいました。ヨーロッパみたいな産業別の組合だと、コーポラティズム的な決着の仕方もあるのかもしれないのですが。

山本:医師会のような産業、職能別の団体もこれからどんどんできていくのではないでしょうか。

神津:労働組合は基本的にボトムアップの組織なんです。企業別の運動でカバーできないところを担当する。その一つとして、地方連合会、地域協議会をずっと整備してきて、地域の運動がやっと定着してきたところです。ただ、その運動が本当に自分たちのものかという識を組合員一人ひとりが持てているかは、疑問ですね。今後も民主主義の土台として機能していくことに努力していかないといけません。

森田:イデオロギーというのは、帰属意識に基づくものなんですよね。昔はその帰属意識が単一の軸で分けられたけれど、いまはそうはいかない。世代、つまり年寄りと若者、都市と地方、持てるものと持たざるもの……いくつかの軸が複雑に重なっている。地方の若者で持たざる人は、低所得のグループに入るのでしょうか。それとも地方のグループ? 若者のグループ? 政党が出すマニフェストは、それらの軸を臨機応変に、都合よく使っているので、自分がどこの軸で政治的な運動にコミットすればいいかがわからないんです。

藤田:対立を煽るのではなく、わかりやすく、自分がどういう社会をつくっていきたいかで政策を選べるようにする。その軸を整理するのは、メディアの役割かもしれませんね。

撤退戦の際をいかに支えるか

山本:もう、ここからの日本は人口減少が止まらず、衰退していくことは明らかです。そのときに大事なのは、セーフティネット。それを張っておかないと、底が抜けてしまいます。

神津:雇用のセーフティネットが、日本は脆弱です。非正規雇用はこの20年で、2割から4割に増えました。個別の企業としては背に腹は変えられず、事実が先行してしまったんです。雇用がどれだけの付加価値を生んで、社会保障をどれだけ支えていくかという図式が大きく崩れた。政府もさすがにこのままではいけないということで、「働き方改革実現会議」を設置し、雇用についての議論をしようという機運は高まっています。

山本:正規雇用を非正規化していく流れが、加速するのはこわいですよね。高い方に合わせて世の中を良くしていこうという話ではなく、低い方、不安定な方に高い方を引き下げようということだと、結局、立場の弱い人たちがみんな不安定になってしまいます。

神津:それは十分に注意しないといけません。非正規化が進めば、ますます雇用も生産性も下の方に引っ張られていく。

森田:これからの政治の仕事は、パイを削るところをどこにするかという判断をしなければいけない。これはみんなやりたくないでしょうけれど、仕方ないですね。地方もどこを残し、どこを切るか決める。そしてどこの世代に負担を負わせるかという部分を、はっきりさせる。そのグランドデザインを描いて、国民に納得してもらうのが本来望ましい政治の姿です。

山本:そうなると、パイが配られなくなって苦しむ人、生活が成り立たなくなる人が必ず出てきます。そういう人たちに、どう政策的なカバレッジをかけるか。どうやって労働政策に結びつけ、人々の暮らしを安定させていくのか。撤退戦の際(きわ)になるのが、地方で働いている人でしょう。地方の産業は今、どんどんなくなってきていますよね。

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