何をもとに投票すればいいか、教えてもらえない日本
藤田:「連合」にも、若い人が希望を持てる社会をつくるために、政策を提案する側としてリアリティのある議論をしてもらいたいですね。
神津:そうですね。しているつもりなのですが、PR不足で理解されていないところがまだあると感じています。例えば、2012年に三党合意で取り決められた「社会保障と税の一体改革」は、僕らの考えとまったく一緒です。持続可能な社会保障を実現するには、これしかないと考えています。消費増税も、反対と言っていた時期もあったけれど、27年前に連合を結成してからほとんどの時代は「消費税にも手を付けないといけない」と発信しています。具体的には試算ベースで、15%は必要だと認識しているんです。

山本:そうした政策の主眼となるところを、具体的な政策論とリンクして出していくだけで、ずいぶん連合の見え方は変わっていくと思います。
藤田:以前、安全保障問題で、社会党系の活動家を取材したことがあります。そのとき、その人がおもしろいことを言っていました。「我々は平和を求めてきたけれど、平和をどう勝ち取るかは考えてこなかった」と。連合も、「働くことを軸とする安心社会」というスローガンをかかげていますが、それをどういう政策で実現するかというところまで考えて、発信していかなければいけないですよね。
神津:そうですね。安心社会は、待っていたら空から降ってくるようなものではありませんから。連合の組合員は、普通の市民なんです。その組合員にも、もっと当事者意識を持ってもらいたい。自分たちの労働組合、自分たちの政治、というところまでもっていきたいですね。どうしても今はおまかせ民主主義的なところがあるんじゃないでしょうか。
山本:投票率も低いですしね。政治でないと解決できないことばかりなのに、政治に対する期待度や信頼が地に落ちているのを実感します。

神津:今年の参院選から選挙権年齢が18歳に引き下げられたことで、にわかに主権者教育がクローズアップされました。これはつまり、日本では主権者教育をろくにやってこなかったということ。選挙権をいかに行使するかというのは18歳だけの問題じゃなくて、選挙権を持つ前、そして持ったあとも継続的に啓発していくべきことだと思います。
森田:スウェーデンでは、学校で政治教育をやるんですよね。例えば、社会民主党の政策はこう、保守党の政策はこうですと教えて、Aさんは社会民主党、Bさんはで保守党の立場と振り分けて、議論させる。そうすることで、どの政党の主張がどれだけ現実的、あるいは根拠が弱いかが見えてくるんです。そうした経験を経て生徒たちは、政策をもとに政党を選んで投票するのが有権者の責任だと実感していく。でも日本の高校で、自民党の政策がこうで、という話をしたら……。
山本:問題になるでしょうね。教育の現場が政治に介入するのか、と。
森田:それ自体が大変な騒ぎですよね。だから、とにかく投票所に行けということしか言えません。本来は、どうやって平和を実現するか、よりよい社会をつくっていくか、そういう道筋を議論する環境から整えないといけない。それは、学者がやるような小難しい議論ではなく、わかりやすいストーリーを軸にみんなで考えていくということなんです。
生産性を上げたいなら、賃金を上げるべき
山本:働く価値を実現していくには、どういう政策が求められているのか。最大公約数で言うと、最低賃金の引き上げや労働環境の充実ですよね。
森田:同一労働・同一賃金もですね。
山本:ではそれを実現するためにどうするか、と話が広がるはずだけど具体的な分析はされてないように見えます。
森田:日本の労働生産性が低いと言われていますが、なぜ低いのか、どういう労働がされているのか、という分析はあまりされていないですね。
山本:労働生産性については、日本の製造業は国際比較でもかなり健闘していますが、第三次産業、つまりサービス業で全体の足を引っ張っています。そのサービス業が全産業に占める割合が67%と高率なので、日本は生産性が低いということになるんですよね。また、労働生産性というのは「付加価値額/労働投入量」として表せます。そして、サービス業の付加価値は単純に労働者に支払われた賃金で規定される。だから賃金が上がらなかったら、労働生産性は上がらないんです。労働環境が変わらないのに、「生産性の高い産業につくりかえろ」というのは無理な話ですよ。
森田:時間ベースで働いている以上、賃金が低いと生産性は下がりますよね。上げるためには賃金を上げるか、労働時間を短縮するかのどちらかしかない。それを実際いまの仕事でどうやるのか、という詰めた議論はなされていません。またスウェーデンの話になりますが、あの国の医師の数は、人口比でいうと日本より多いんです。なのに、数が足りないと言われている。そして生産性は日本より高い。このカラクリは、休暇取得日数にあります。彼らは、年間70日も休暇をとる。だから10人の医局なら、いつも2、3人休んでるんです。そして残った人に労働負荷がかかって、生産性が高くなっている。一方、日本の医師が忙しいのは、医師にしかできないこと以外の事務的なことをやらされているからですよね。このように、労働の中身や休暇取得日数も含め、細かく見ないと、生産性を上げる具体的な方法にはたどり着かないでしょう。
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