昔栄えた地方の工業都市ほど惨状が待っている

木下:今の地方で大変なのは、昔はある程度人口や産業が集積していた都市なんです。企業が建てた工場の固定資産税や、栄えていた事業に関連する従業者から税金を集めていた自治体ほど一気に厳しくなっている。北九州市は、まさにその先進例です。

山本:過疎地が高齢化で困っているという話はメディアでもよくピックアップされますが、じつは地方でリアルに大変なのはかつて栄えた工業都市なんですね。

木下:はい。北九州市では、1979年の約107万人をピークに、2005年には100万人を割って、2007年以降は毎年平均4000人ほどの減少が続いて、2014年には約96万人になりました。そうするとさまざまなインフラが余り、維持も困難になる。たくさんの工場によって支えられていた労働環境や社会保障も細くなり、会社も面倒を見きれずスタッフを非正規雇用化していく。北九州市の小倉地区では、実情に合わせた「縮小社会型」の再生計画を実行して少しずつ、雇用が増えているのですが、全体としては今後も減っていくと考えられます。

藤田:規模はもっと小さいですが、2006年に破綻した北海道の夕張市も、もとは炭鉱の町として栄えていましたよね。

木下:夕張については、自治体破産法をもっと真剣に検討すべき契機だったと思います。このケースで一番こわいのは、破綻当時の353億円の赤字を、今後ずっと夕張に住む人が返済し続けないといけないことです。要は自治体はリセットが許されない仕組みなんですよね。つぶれないというのは表向きはいいことのように聞こえるけれど、個人で言えば、おじいちゃんがつくった借金を孫も返し続けているようなもの。どこかでリセットできる仕組みをつくらないと、この問題はなかなか解決しないでしょう。

山本:それはもう、人口減少が宿命づけられている日本社会の中で、活力を維持しながらどううまく撤退するかということですよね。日本はもう、勝つために闘うのではなく、撤退戦で被害を少なくする方法を考える段階にきています。そのグランドデザインはどこから手を付ければいいのでしょうか。

森田:残すところと残さないところをはっきり線引し、撤退プランと育成プランに分けて対応することですね。でもそれが、なかなか政治的にできない。北九州市もその他の都市も、これ以上、人口が増える可能性はない。だったらある程度の規模の都市を活かし、まわりを縮小していくしかありません。そういうかたちで対応せざるをえないと理解してもらうのは、なかなか難しいことです。私自身も以前、市町村合併に関わったことがあります。そのときに、ABCDEという5つの自治体を合併したら、一番大きなAだけ栄えてほかが衰退する、だから嫌だという意見があった。でも合併しなかったら、BCDEも、そしてAも、すべてが衰退するんです。感情的に抵抗があるのはわかりますが、理屈を説明して理解してもらうしかないのかなと。

規制強化ではなく、何かが起こった時に対処すればいい

神津:やはり何か一つ成功モデルをつくって、徐々に普及させるしかないと思います。日本人は「みんな一緒なら大丈夫」と思いすぎるところがあるのではないでしょうか。東日本大震災ではあんなに大きな被害があったのに、みんなで肩寄せあって生きていこうと、その場を乗り切った。それはすばらしいことです。でも、みんなで普通に生活できるんだから大丈夫と安心して、社会を変える変化にはあまり向かわなかった。社会保障問題もそうです。社会保障に関心が集まっていることは確かですが、本当に危機感があるかというとそうではない。政党選びの争点にはなってないし、投票率も低い。このままでなんとかなるんじゃないか、と思っているんですよね。

山本:現状維持を好む傾向はありますよね。稼ぎが減ってしまっても、新しい稼ぎ方を見つけるというよりは、それでなんとか生活していこうとする。その結果、苦労は分かち合われてもみんなジリ貧になってしまう。

藤田:「爆買い」で中国人が日本に押し寄せた時に、政府もマーケットもみんな喜びましたよね。それは、稼ぐ方法が降って湧いたから。それは一時期の幻想だったということがわかるのですが、今の時代、何をするにも日本のマーケットだけだとどうにもなりません。この先事業を拡大するならば、海外に目を向けることは必須です。そのとき政府の規制は基本的に邪魔になります。

山本:そうですね。

藤田:今まで日本では、問題が起こる前に早手回しに抑えようとしていました。それが規制の強化につながっていた。これからは、考え方をガラッと変えることが必要です。事前に防ぐのではなく、問題が起こってから対処すればいいというふうに切り替えていかないと。それと同時に、変えなければいけないものがあります。それは、何か問題が起こった時に「政府は何をしていたのか」と責める考えかた。政府は基本的に静観していて、問題が起こったら対処するというものだと認識を変える。ここはメディアも気をつけるべきですね。

神津:雇用においても、考え方、風土を変えなければいけないところはたくさんあります。今年の春闘では、中小の要求が大手を上回れないという固定概念は終わりにしよう、と呼びかけました。大手追随、大手準拠からの脱却を特に強く言ったんです。

山本:それは大事な観点ですね。中小企業でも成長力のある活気づいたところはたくさんあります。

神津:大手企業をトップとするヒエラルキーは、中小企業の経営者の頭の中にも根強くあります。長いものには巻かれたほうがいいと考えて、価格や条件をちゃんと交渉できない。大手の発注者の言いなりになってしまうんです。そして、これは中央と地方にも当てはまる図式ですよね。中央政府の言うことを聞いておけば、最後は助けてくれるだろうと思ってしまう。そうではなく、地方にも同じだけ主張する権利がある、自主性を持って動いていかなければいけない、ということを発信していかなければと思います。

次回へ続く)

(構成=崎谷実穂)