人口急減時代の新ルールとは

山本:地方の自治体を再々編するという話も出てきていますよね。

木下:うーん、市町村再編、都道府県再編に関しての話は、道州制に味噌がついてしまったこともあり、若干タブー視されているように感じますね。行政機構を再編して、社会保障や地域の維持にかかるコストを見直そうという話は、本筋として今、熱心に議論されていません。

山本:現状に汲々としていて、あまり長い目では現実を直視しないようにしている、ということでしょうか。とはいえ、人口減少で地方が消滅しかねないというのは、実際に起こっていることです。それについて、政策シンクネットのエディターであり、長年政治や社会の問題にジャーナリストとして向き合ってきた藤田さんはどう思われますか?

藤田:先日、森田先生ともお話ししたのですが、もう日本の人口はこれから、フリーフォールのように落ちていくんですよね。日本の人口の推移を歴史的に見てみると、平安初期には約550万人だった人口が、江戸時代直前には1200万人を超え、1872年(明治5年)から急激に増加の角度が上がり、2010年には1億2806万人に達します。そこがピークだった。社人研によると、2060年には8474万人、2100年には4959万人にまで減ると推計されています。私たちはもう、分水嶺を過ぎてしまったんです。でも、そこに危機感を覚えている政治家はどれくらいいるでしょうか。

<b>藤田正美</b>(ふじた・まさよし)東京大学 政策ビジョン研究センター 特任研究員
藤田正美(ふじた・まさよし)東京大学 政策ビジョン研究センター 特任研究員

山本:数字として知っていても、これが身近なことだと深刻に捉えている人はあまりいなさそうです。

藤田:人口が減るというのは、社会のルールが変わるということなんです。人口が増えている時代は、毎年大きくなるパイを仲良く分け合えばよかった。今年はうちがもらったから、来年はあなたのところね、と調整することができたんです。ところが人口、国力、何もかもが減っていく時代は、ぶんどったもん勝ち。今年もらえなかったら、もうこの先ずっともらえないかもしれない。オールオアナッシングなんです。このルールが変わったということは、認識されていません。それには、メディアにも責任があります。メディアが強く発信し、周知していかなければいけない事実だと思います。

山本:新しいルール、制度を政策面から考えていく必要がありますね。でも、今の自民党のやり方のままだと、解決される気がしません。

生産した上でしか、分配はできない

森田:政治家の認識が甘いという点もあると思いますが、次の選挙で勝ちたいと考えると、わかっていても改革案を進められないのではないでしょうか。ヨーロッパでは、政策の内容から投票先を決めるということが当たり前におこなわれています。それは、比例代表が中心になっているから。党として長期的にこういう政策を進めます、それがいいと思ったら投票してください、と言える。でも日本のように、選挙で当選するかは個人の責任、となるとなかなか具体的な政策を打ち出すのは難しいですよね。

山本:そうすると、国民の機嫌をうかがうような主張ばかりになってしまいます。例えば年金生活者の生活を直撃する消費税増税なんかは、こわくて言い出せませんよね。

森田:どうして日本の選挙はそうなったのか。ひとつはソ連が崩壊していった1990年あたりでイデオロギーがなくなり、拠りどころになるような思想や哲学が政治の世界から消えてしまったからです。昔はわりとわかりやすくて、社会主義、労働者重視の政策を社民党が代表していて、自由主義で自由市場を広げていきたい人、つまり自営業や起業家の政策は自民党が代表していた。どちらにするか、という選択の余地があった。今は、どの党の候補も同じことを言いますよね。特に政治思想がないから、みんな「豊かで明るくて美しい国をつくりたい」みたいなことを言う(笑)。

山本:衰退していく日本をうまく回していくための新しい政治思想が、今はまだ出てきていません。右肩上がりを前提にしたような制度改革から次の時代にマッチした枠組みができないまま停滞しているような感じです。

藤田:民進党の蓮舫代表が、参院本会議で「批判から提案へ」のスローガンに従って、22回も「提案」と言ったと。でも、何を提案するかが見えてこないんですよね。

木下:政治家は、決断が仕事なんですよね。国民は、政治や行政は何かを生み出す存在ではないと理解しないといけません。打ち出の小槌のように、求めれば何でも出してくれる存在ではない。自分たちが払ったお金や、生産したものの上でしか、物事は分配できないんです。それは、私達も意識すべきことだと思っています。でも、なんとなく生きていれば幸せになれた時代があったから、意識がなかなか変わらない。

山本:高度成長期の弊害ですね。

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