フランスの出生率を回復させた特効薬とは
森田:出口さんは少子化対策について、フランスの「シラク3原則」のことをコラムで紹介されていますよね。すごく興味深い政策だと思ったので、その件について少しご説明いただけますか。

出口:それには、なぜフランスが少子化対策に本腰を入れたか、という話に遡る必要があります。フランスの市民は、1980年から90年代にかけて、フランス文化がこのままでは後世に受け継がれないのではないか、という危機感を覚えたのです。アンケートをとると、フランス人の40数%しかフランスワインを飲まなくなっていることがわかった。しかも、1993年にはパリにディズニーランドができて、その他英語で教える大学院もできた。でも、フランスの人々はやっぱり自国の文化を守りたいと考えた。そして、文化を守るとはどういうことかを考えた結果、「フランスで生まれ、母語(マザータング)がフランス語である人を増やそう」という結論に達したのです。
森田:そこからの少子化対策だったと。理由が明快ですね。
出口:そうなんです。単に人口が減ったから増やそう、というのではなく、なぜ増やさなきゃいけないのか、それにはどうすればいいのか、ということを真剣に考えた結果だったのです。そして、「シラク3原則」という政策パッケージが出てきました。
1つ目の原則は、子どもを持った人に新たな経済的負担を生じさせないこと。僕の理解としては、女性が好きなときに赤ちゃんを産む権利を保証するということです。女性が産みたいときに、出産・育児に必要な経済力が備わっているとは限らないので、その差を税金で埋める、という政策です。
2つ目の原則は、無料の保育所を完備すること。待機児童ゼロということですね。1つ目の原則とセットで考えると、保育園のコストは、0歳児の場合は高い。1歳以降から低くなる。だから出産から最初の1年は、給与をほぼ100に近いかたちで保障する。するとほとんどの人は休みます。そして2年目からは給与保障を少し下げて、働き始めてもらい、保育所を利用してもらう。すると、保育所運営にかかる社会的コストを抑えることができます。こういう設計もちゃんとしてあるのです。
そして3つ目は、育児休暇から復帰したときには、ずっと勤務していたものとみなして企業側は受け入れる、というもの。ランクも同じです。
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