今年のWRCは面白くなる――。そう確信しました。セバスチャン・オジエは異なるチームから5連覇を成し遂げられるのか? 新しいチャンピオンが誕生するのか?

 また、トヨタが事前の予想を覆し、「予想外に強いチーム」であることがわかったのは、うれしい驚きです。今回のスウェーデンでも、2台のヤリスWRCに目立ったトラブルは起きていません。信頼性は高そうです。いくら速くてもトラブルが頻発する車では絶対に選手権を勝ち抜くことはできません。

 チーム全体の力も、参戦したばかりのチームとは思えないほど、素晴らしいのではないでしょうか。2013年にVWが参戦したときも、VWは開幕戦で2位、2戦目で優勝と、今回のトヨタと同じ結果を出しています。ですが、VWは前年の2012年に、グループ傘下のシュコダの車を使って参戦していました。チームとしてはデビュー年でも、実質的には2年目だったわけです。それに対してトヨタは完全な「新入生」なのです。ドライバーばかりに注目が集まりやすいですが、モータースポーツはチームでの競技です。エンジニアやメカニックたち、全員が完璧な仕事をこなさなければ、勝つことはできません。

チーム全員でつかんだ勝利 (写真:Red Bull Content Pool)
チーム全員でつかんだ勝利 (写真:Red Bull Content Pool)

 もちろん、まだヤリスWRCとトヨタが「正真正銘、本当に強い」かどうかを断言することはできません。

 「デビュー戦で2位、2戦目で優勝、何の文句があるのか?」と思われるかもしれません。しかし、モンテカルロも、スウェーデンも、あまりにも状況が特殊なラリーで、車の本来の力の差が出ないのです。次戦は3月に開催されるラリー・メキシコです。ここは、ステージが2000メートル以上の高所にあり、エンジンパワーが20%以上も失われてしまうという、これまた特殊な場所でのラリーとなります。

 現在、選手権のリーダーはラトバラです。次戦メキシコを先頭で出走しなければならないので、路面につもった細かい土やほこりを掃除する役目を負わされ、初日は厳しいスタートになるでしょう。タイムロスをどこまで抑えられるかにも注目です。ライバルのオジエは2番手スタートなことに加え、過去3年間、先頭出走での路面掃除役を担ってきた経験もあるので、初日はオジエが速そうです。また、次回も後方出走となるヌービルも、おそらく速いタイムを出してくるでしょう。2戦連続で不振のシトロエンのミークは、得意のグラベル(未舗装路)なので、手強い存在になってくるのではないでしょうか。

 4戦目のコルシカは、完全なターマック(舗装路)なので、グラベルをメインに開発されていると言われるヤリスWRCにとっては少々困難な闘いになるかもしれません。ここでは先頭出走による不利はないので、どんな路面でも得意なオジエが最有力候補です。また、もともとターマックが得意なヌービルも速そうです。

世界に浸透する「ヤリス」の名前

 というわけで、今後もますますWRCから目が離せないのです。もし、トヨタが今後もコンスタントに強さを発揮してくれれば、日本人としてこれほどうれしいことはありません。WRCでは、市販車がベースになった車を用います。WRCで活躍するということは、そのベースの車が世界中に知れ渡ることになるのです。今回の優勝で、「ヤリス(日本名ヴィッツ)」の名前がファンの間に広く浸透したことは、言うまでもありません。

 往年のラリーファンが「アウディ・クワトロ」や「ランチア・デルタ」「三菱・ランサーエボリューション」といった車名を聞くだけで心が思わず躍ってしまうように、「トヨタ・ヤリス」もなってくれればいいな、と思います。

ヤリス(ヴィッツ)が最も過酷なモータースポーツと呼ばれるWRCで活躍する(写真:TOYOTA GAZOO Racing)
ヤリス(ヴィッツ)が最も過酷なモータースポーツと呼ばれるWRCで活躍する(写真:TOYOTA GAZOO Racing)

 なお、今年から地上波でもWRC番組が見られるようになりました(深夜時間帯ですが)。「地球の走り方 世界ラリー応援宣言(こちら)」という番組がテレビ朝日系列で始まっています。若手の芸人さんが体当たりで現地観戦に臨むというチャレンジ企画もあり、バラエティとしても楽しめます。スウェーデン分の放送を見逃してしまった方も、オンラインで放送を見ることができます。また、ラリー期間中は、英語解説ではありますがインターネットTVの「Red Bull TV(こちら)」では、無料で放送を見られます。ステージからの生中継もあります。

 日本メーカーが活躍する姿を、ぜひ、WRCでチェックしてみてください。

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