これによって、思いもかげず、ラトバラが首位に立って最終日を迎えることとなります。しかし、背後にはわずか3.8秒差でオット・タナク(Mスポーツ・フォード)、16.6秒差でオジエが迫っていました。土曜日の午後、ラトバラはタイヤの摩耗に苦しみ、タイムを少しずつ失っていたのです。追いかけるタナクやオジエのほうはラトバラを上回るタイムを刻んでいて、勢いはむしろタナクやオジエのほうにあるようにも見えました。

 最終日のトヨタ&ラトバラの作戦としては、2つの選択肢がありました。

 1つは、首位を失う可能性は覚悟して、確実に3位以内、表彰台をものにする安全策。もう1つは、タナクやオジエの追撃をかわし、全力で勝ちに行く策。全開で攻めれば、その分ミスを犯すリスクが生じます。果たして、ラトバラとマキネンはどちらを選択するのか?

全力で勝ちに行った日曜日

 日曜日、残るステージは3つでした。意外にも、優勝争いから一番早く脱落したのは、オジエでした。日曜日の最初のステージで、スタートからわずか50メートルほどの最初のコーナーでスピンしてしまったのです。VW時代、ほとんどミスをすることがなく、どこにも隙が無いように思えたオジエですが、やはり人間だったのか。車にまだ慣れていないというのもあるでしょうし、追いかける焦りもあったのでしょう。

 優勝争いはラトバラとタナクの2人に絞られました。ここでラトバラは猛チャージ。最初のステージでタナクを7.1秒も上回るタイムを出し、次のステージではさらにタナクより9.1秒も速いタイムを刻んで、タナクを完全に突き放しました。そうです。安全策ではなく、全開で勝ちに行ったのです。

 土曜日の夜、マキネンはラトバラに「とにかく速く走ることだけに集中しろ。コースのことだけを考えろ」とアドバイスを与え、ラトバラは精神的に落ち着くことができたのだそうです。さすがマキネン、4度の世界チャンピオン。普通なら「ここは安全策で・・・」となりそうなところですが、肝が据わっています。

 最終ステージは「パワーステージ」と呼ばれ、このステージで最速タイムを刻んだドライバーには5点のボーナスポイントが与えられます(昨年までは3点でしたが、今年から5点に)。ラリーを優勝して得られるポイントが25点なので、選手権のことを考えるとこのボーナスポイントは「おいしい」のです。しかし、すでにリードが十分にあって勝利が目前のドライバーは、普通は優勝を最重視してパワーステージを全力で攻めないパターンが多いです。全力で攻めた結果、ミスをおかして優勝を失ってしまうリスクがあるからです。

 ところが、このパワーステージでもラトバラはスピードを緩めることなく、なんとトップタイムをマーク。25点+5点のフルポイントを獲得して、完全勝利を収めたのです。パワーステージでも、マキネンがラトバラに「これまで通りに走れ」と指示したのだとか。

 ラリー・スウェーデンの週末の間、ラトバラは終始落ち着いていて、「はまった」状態でした。さすがのオジエやタナクもかないませんでした。

優勝が決まった瞬間、飛び上がって喜んでいたトミ・マキネン代表(写真:TOYOTA GAZOO Racing)

WRCは13年ぶりに“1社独占”から開放された

 トヨタのチームやファンだけでなく、WRCのファン全体がラトバラの勝利を喜び、歓迎しました。長年のWRCファンは、「ついに、WRCはワンメーカー独占の時代から解放された」と口々に叫びました。過去13年間、WRCでは1つのメーカーと1人のドライバーがチャンピオンの座を独占していました。9年間、シトロエンとセバスチャン・ローブが。そしてローブ引退後の4年間はVWとセバスチャン・オジエが。

 モンテカルロでのフォード・Mスポーツの、そしてスウェーデンでのトヨタの勝利は、新時代のWRCが到来したことを、確実に示したのです。ファンが見たいのは、ドキドキワクワクな展開です。寡占状態の終焉を、多くのWRCファンが喜ばないわけがありません。