じゃあ、なぜトヨタが勝てたのか? 私は、「パズルのピースがきれいにはまった」からだと考えます。ヤリスWRCという車、ラトバラというドライバー、そして路面がオールスノーのスウェーデンというラリー。すべての条件がぴたりとはまったのです。

ラトバラがいなかったら、1~2年は勝てなかったはず

 前回、「トヨタがラトバラを獲得できないでいたら、モンテカルロでの2位はなかっただろう」と書きました。今回も断言できます。もしラトバラがいなかったら、優勝はあり得ませんでした。それどころか、参戦1~2年はもし表彰台に乗れればラッキー、といった程度だったはずです。

 2016年のシーズン終了間際に、フォルクスワーゲン(VW)の撤退が発表される前に、トヨタは既にユホ・ハンニネンとの契約を発表していました。しかし、新興チームとしては、ハンニネン以上に能力と経験があるドライバーがほしいところです。トップドライバーを育てるには、時間もお金もかかるので、他チームが育てたドライバーを引き抜いたほうが手っ取り早いからです。しかし、めぼしいドライバーはすでに他チームに押さえられていたので、おそらくは新人のエサペッカ・ラッピと契約するだろうと見られていました。直後にVWの突然の撤退が決まり、結果、トヨタはVWに所属していた、ベテランのラトバラを獲得できたわけです(VWでのラトバラのチームメイトで昨年の王者、セバスチャン・オジェはMスポーツ・フォード入り)。

 もし、ハンニネンとラッピの2人だったなら、かなり厳しい戦いが待っていたことは間違いありません「ラリーは経験がすべて」と言われるスポーツだからです。同じコースを何周もするサーキットレースとは違い、トップドライバーになるためには、さまざまな路面や状況の変化に対応できるように、とにかく経験をつむ以外にないのです。ハンニネンはWRCにフル参戦するのは今年が初めてですし、ラッピは下位カテゴリーのWRC2で年間王者になっているものの、WRCでは完全な新人。2人にとって、少なくとも1年は「学習の年」になったはずです。

 実際、開幕戦のモンテカルロ、2戦目のスウェーデンと、2戦続けて、ハンニネンはクラッシュを喫してデイ・リタイヤ(その日の競技からリタイヤし、修理して翌日再出走すること)となっています。これは、ハンニネンがダメなドライバーだからというのではなく、単にWRCでの経験が不足しているからだと思います。

エースとなって、自信を得たラトバラ

 ラトバラのほうも、よくクラッシュすることで有名なドライバーです。ただ、彼のクラッシュは経験不足からではないのです。彼は速さではチャンピオンのオジエにもひけをとらないのに、メンタル面の弱さが弱点なのです。勝利が目の前に見えているのに、プレッシャーやちょっとした気の緩みからクラッシュしてしまう・・・。逆に、「はまった」ときのラトバラは、めちゃくちゃ速いのです。

 VW時代のラトバラは、車に自分のスタイルを合わせることにも苦労していました。自分が車の扱いに苦心している中、チームメイトのオジエは同じ車を完璧に操り、かつ、精神的にもどんどん強くなっていました。2016年シーズンのラトバラは、明らかにモチベーションを失い、スランプに陥っていました。

 しかし、トヨタに移籍した後はNO.2ドライバーではなく、名実ともにエースドライバーとしてチームの牽引役となりました。それは、彼に大きな自信を与えたはずです。それに、トヨタはフィンランドをベースにしていて、チーム代表からチームメイトまで皆フィンランド人ですから、当然、精神的にもリラックスできるはずです。

 当初はライバルチームに比べて開発に遅れがあるのではと言われていたヤリスWRCですが、ラトバラがチームに加わってから、短期間の間にもみるみる戦闘力が増していました。そこには、経験豊富なラトバラからの適切なフィードバックがあったことは間違いありません。