今年から、WRCでは車両規定が大きく変わっています。エンジンの規定が緩和されて最大出力が320馬力から380馬力にアップし、一方でマシンの最低重量は1200kgから1175kgに軽量化されました。また大型のリアウィングを始め、空力の面でもルールが一新されています。理論上、2017年の車両は2016年までの旧型車よりも1kmあたり1秒速いと言われています。kmあたり1秒も「遅い」はずの旧型車に乗ったブリーンが5位、そしてカテゴリーの違うR5車両(WRC2クラス)のアンドレアス・ミケルセンが7位に入っていることなどから、マシンの差というよりもドライバーの差、そしてミスやトラブルがなく、順位を守りきることが大切なラリーだったことが言えます。

エンジン規定の緩和や車重軽量化のほか、空力面でも大きな変化が。特にトヨタの革新的なエアロダイナミクスには、VWでテクニカルディレクターを務めていたフランソワ=グザビエ・ドゥメゾンも心底驚いたとか

 ですから、1戦目から2位に入れたからといって、トヨタが今後も上位入賞は確実、とは言い切れないわけです。むしろ、ヤリスWRCは、ライバルと比べると速さの面では遅れがあるかもしれません。今回、ラトバラは17のSS(スペシャルステージ、タイムアタック区間)で一度も最速タイムをマークしてはいません。総合タイムを比較すれば、優勝したオジエとの差が2分15秒。SSの総距離が382kmなので、単純計算ではkmあたり0.35秒遅いことになります。オジエはコースオフで40秒以上失っていることを考えれば、差はもっとあることになります。

 WRCカレンダーの最初の3戦には、モンテカルロ、スウェーデン、メキシコが当てられることが通例です。今年も次戦は2月のスウェーデン、3戦目は3月のメキシコとなっています。モンテカルロは雪、氷、ドライのターマックが混じった特殊な路面、スウェーデンはオールスノーと、これまた特殊なラリー。メキシコは標高2000mを超える高地で開催され、エンジンパワーが20%以上も失われるので、マシンの真の力は発揮できません。

 4戦目のコルシカ(ターマック)や5戦目のアルゼンチン(グラベル、未舗装路)を見てみないと、各チームのマシンの出来は、なんとも言えないところです。ちなみに、雪のスウェーデンは、北欧系のドライバーは得意としているので、トヨタもけっこう行けるかもしれません。

これは案外行けるかもしれない…!

 …と、ついつい辛口なことを書いてしまいますが、私を含め、ほとんどのWRCファンは、開幕戦でトヨタがここまで行けるとは予想もしていなかったはず。ヤリスWRCは思いの外「いい車」なのでしょう。いや、そうあってほしい。準備期間が他チームよりも短かったので、もっと遅い事態すらあり得ました。

 なにより安心した点は、大きなトラブルが出場した2台のマシンに起きなかったことです。いくつかのマイナートラブルはあったのですが、それによってラリーを失うほどの致命的なものではありませんでした。「速いけれど壊れる」マシンを丈夫にするより、「遅いけれど壊れない」マシンを速くするほうがずっと簡単なのだそうです。ヤリスWRCが信頼性の高いマシンなら、たとえ序盤はスピードで劣っても、シーズン後半には速くなる可能性は十分あります。

 VWではオジエの影でなかなか本領を発揮できなかったラトバラですが、トヨタでは名実ともにエース・ドライバーとしてチームを牽引する役目を担っています。VW時代に失いつつあった自信を取り戻し、メンタル的に強くなれれば、速さがあることは間違いないので、オジエに真っ向から対抗できるドライバーになります。ラトバラが再び覚醒するか――、それもトヨタの命運を左右しそうです。

 トヨタにラトバラをもたらしたVWの撤退は、参戦メーカーが減り、WRC全体としてはマイナスです。ですが、ここ数年のような「VW一人勝ち」はなくなり、各チームの力が拮抗した状態になるでしょう。もっとも、今年から車両規定がガラリと変わったので、VWが2017年も速かったかどうかはわからないのですけれど(ミケルセンがプライベートチームとして2017年版ポロR WRCで参戦できるよう画策中のようなので、それが実現すればポロの速さがわかりますね)。

 オジエが楽々と5連覇できるとは、まったく思えません。車にまだ慣れていないということもありますし、オジエ自身も述べていたのですが、Mスポーツはプライベーターなのです。フォード本社からの全面的バックアップは得られず、予算の面でもほかのマニュファクチャラーチームには劣ります。十分なテストも行えないかもしれません。

シトロエンの逆襲はあるか

 私なりに今年のWRCの展望を予測すると、有利な立場にいるのはヒュンダイとシトロエンです。新車の開発にかける時間は十分ありました。ヒュンダイのヌービルはモンテカルロ3日目の最終ステージまでは、オジエを凌駕していました。

 シトロエンは2016年、フル参戦を諦めて、まる1年を新車開発に当てました。にもかかわらず新車のデビュー戦モンテカルロは散々な結果です。ステファン・ルフェーブルは、SS2でメカニカルトラブル、その後も路面の変化に翻弄され、リズムをまったくつかむことができず、「自分がどこにいるのかわからなかった」と言うほど、混乱していました。ルフェーブルはまだ若く、昨年ようやく本格的にWRカーで参戦を始めたばかりですから、仕方ないかもしれません。エースのクリス・ミークはラリー2日目の午前中に大クラッシュ。その後もメカニカルトラブル、最後は、ロードセクションで一般車と衝突してリタイヤするという不運ぶりでした。