チーム代表のマキネンはオジエがトヨタ加入を断ったことに落胆したようですが、結果的にはラトバラを獲得でき、むしろよかったのではないでしょうか。ヤリスWRCは、マキネンが自らテストでハンドルを握って開発されたマシンです。ハンニネンや、同じくフィンランド人のヤルコ・ニカラもテストを担当していましたが、全員フィンランド人ですから、「フィンランド人好み」の車に仕上がっていることはおそらく間違いないでしょう。付け加えておきますと、これは、ドライバーは若い頃から走り慣れている自国の道路環境に適応したスタイルを身につけることが多い、という意味です。ちなみに、オジエはフランス人です。

 4年連続のWRC王者で、現在最も優れたドライバーであるオジエとはいえ、ヤリスWRCを初戦から扱いきることは相当難しかったのでは、と、思います。後輪をドリフトさせるのが得意な北欧系ドライバーに対して、オジエは9度のWRCチャンピオン、セバスチャン・ローブのように、正確にタイヤをグリップさせるスムーズなドライビングスタイルです。ラトバラがVWに移籍したときに苦しんだように、もしオジエがトヨタに加わっていたら、車にドライビングスタイルを合わせるのに苦労したのではないでしょうか。

 12月にラトバラがトヨタに加わった後、トヨタは積極的にテストを行い、その短期間の間にも車はみるみる戦闘力を上げていったそうです。経験豊富なラトバラによるフィードバックが貢献したことは間違いないでしょう。

ヒュンダイの独走がミスで消える

 そして迎えた1月の開幕戦、モンテカルロ。

 2014年、2015年、2016年とモンテカルロを3年連続で勝利しているオジエですが、今年は事情が全く違います。車は、自分が時間をかけて開発したポロR WRCではなく、フォード・フィエスタWRCで、イベント前に事前テストを2日間行っただけ。しかも2日目にはクラッシュして車を大破させたので、実質的に1日半。車と路面コンディションを入念にチェックしておくことが不可欠なモンテカルロで、この状況は圧倒的に不利でした。

 実際、ラリーが始まると、終始速さを見せてトップを快走していたのは、ヒュンダイのエース、ティエリー・ヌービルでした。オジエはヌービルとの差を縮められるどころか、ちょっとしたミスから溝にはまって40秒以上をロス。優勝はほぼ不可能に見えました。

 ところが、ラリー3日目の最終ステージ、ヌービルはコーナーでわずかにふくらんだところでコース脇に車をヒット。タイヤはパンクし、サスペンションにもダメージを負ってしまいました。数センチずれていたら何事もなかったでしょう。何日も朝から晩まで、いくつもの難しいステージを走ってきたのに、わずかなミスですべてを失ってしまう。これも、ラリーの厳しさです。

わずかなミスで目前に迫っていたモンテカルロ優勝を失ってしまったヌービル

 そんなわけで、オジエがトップに躍り出ることになりました。2位にはチームメイトのオット・タナク。3位にラトバラがつけていました。ほかのドライバーたちは、クラッシュやメカニカルトラブルから、次々と脱落しています。

 迎えた4日目、最終日。トップのオジエと2位のタナクの差は47秒、タナクと3位ラトバラの差は1分33秒も開いていたので、この順位のままフィニッシュのように思われました。ところが、2位のタナクにエンジントラブルが発生し、2位の座をラトバラがもぎ取りました。結果、優勝はオジエ、2位ラトバラ、3位タナクでラリーが終了しました。

ラトバラ/アンティラ組が大健闘で2位を獲得

 トヨタが2位を獲得できた背景には、雪や氷ありの路面で、車の出来の差が出にくいモンテカルロの特殊さ、ヤリスWRCをうまく扱え、かつ、さまざまな路面コンディションに対する経験を持ったドライバーであるラトバラがいた、ライバルのトップドライバーたちが脱落していった、といった事情があったわけです。

 なお、今回のモンテカルロが「いかに生き残るか」が重要な持久戦であったことは、5位にシトロエンのクレイグ・ブリーンが入っていることからも明らか。ブリーンの車は2016年仕様の旧型車なのですが、最新車両を向こうに回しての入賞でした。