この連載も日経ビジネスオンライン休刊に伴い最終回。最後はやっぱり、私が愛するラリードライバー、コドライバーについて書かせていただこうと思います。

 「最も過酷なモータースポーツ」と呼ばれるWRC(ワールド・ラリー・チャンピオンシップ、世界ラリー選手権)。狭い山道もデコボコの悪路も猛スピードで爆走するうえ、横転やクラッシュも珍しくありません。「F1ドライバーは頭のネジが飛んでいるが、ラリードライバーにいたっては、そもそもネジがない」とすら言われるほど。

 そんな競技を職業にしているWRCのドライバー、コドライバーって、素顔はどんな人達なのでしょう。私は8年前から、現在のWRCチャンピオン、セバスチャン・オジェとコドライバーのジュリアン・イングラシアのファンです。もちろん、フランスにはもっと以前から彼らのことをよく知っている人達が大勢いますが、日本人としては、私は彼らを長年知っていて、彼らと最も親しい人間の一人なのではないか……? と密かに思っております。また、コドライバーのイングラシアとは、今ではファンであると同時に友人でもあります。さらに、トヨタGAZOOレーシングのオット・タナクのことも9年前から見てきました。

 彼らを知ってからメディアの記事を見ると、ちょっとイメージが違うなあ、と思うことがあります。あくまで自分の体験と感覚で捉えた、「ラリー選手がどういった人か」を、ご紹介したいと思います。

 そもそも、私がオジェ/イングラシアと親しくなったきっかけは、2011年のラリー・アクロポリスを観に行ったときのこと。ギリシャで浴衣を着ていたところ、コドライバーのイングラシアと一緒に写真を撮りました。彼が「写真を見たい」と言ったので、メールアドレスを教えてもらい、撮った写真を彼に送りました。それから、たまにメールをやり取りするようになり、次第に親しくなっていったのです。ここからは、ファーストネームでセバスチャン(セブ)、ジュリアンと呼ばせてください。

かつて、セバスチャン・ローブ(左から2番目)とチームメイトで、ローブによってシトロエンから追放されたオジェ(右端)。コドライバーのイングラシア(右から2人目)とともに、2019年はシトロエンに復帰する ©Citroen Racing
かつて、セバスチャン・ローブ(左から2番目)とチームメイトで、ローブによってシトロエンから追放されたオジェ(右端)。コドライバーのイングラシア(右から2人目)とともに、2019年はシトロエンに復帰する ©Citroen Racing

ドライバーのご実家は裕福?

 セバスチャン・オジェには、「絶対王者」「冷静」といったイメージがあるかもしれません。また、彼がまだ若手でセバスチャン・ローブと組んでいた頃をご存じの方は、「生意気」といった印象を持っているかもしれません。確かに、王者としての戦い方は賢く冷静なのですが、私が知っているセバスチャンは、冷たくも生意気でもないのです。

 まずは、彼らのバックグラウンドからお話しましょう。そもそも、WRCのドライバーは、もともと父親が(国際レベルではなく、国内レベルであっても)ラリーをしていたという人が多いです。例えば、オット・タナクの父親はエストニア国内選手権に出場していました。同じくトヨタに所属するヤリ=マッティ・ラトバラの父親もラリードライバーです。

 また、裕福な家庭の出身者が比較的多いのも、WRCの特徴かもしれません。ラトバラの父親は実業家でもあります。ヒュンダイのアンドレアス・ミケルセンの父親は、かなりの資産家で、息子がラリーを始めるときに相当の支援をしていました。もっとも、リーマンショック後は資金援助が困難になったのですが。

 ラトバラは現在33歳、ミケルセンは29歳で、6度の王者のオジェ(35歳)より年下ですが、ドライバーとしてのキャリアはオジェより長いのです。2人とも17歳のときにイギリスに移住してイギリス国内選手権に出場しています。イギリスでは17歳から四輪免許が取れるのです。WRCには王族だっているのですから(アラブ首長国連邦の王族、カリド・アル・カシミや、カタールの王族、ナッサー・アル・アティヤー)。お金持ち度合いでは、F1よりもWRCのほうが上手かもしれません。F1でも、最近は財政難の小チームのシートを持ち込み資金で買い取るドライバーが増えてきました。とはいえ、トップドライバーであるルイス・ハミルトン、セバスチャン・ベッテル、キミ・ライコネン、フェルナンド・アロンソらは一般家庭の出身です。

次ページ スキーインストラクターからラリードライバーに