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 とはいえ、「2020年の開催は確実」と楽観視することはできません。開催に名乗りを上げているのは、日本だけではないからです。アフリカのケニアを中心に行われるサファリラリー(2002年までWRCに含まれていた)が2020年の開催を目指しています。また、ニュージーランドもWRCへの復帰を願っています。ライバルは多いのです。

 さらに、私は、ラリー・ジャパンには大きな問題が残っていると思います。スペシャルステージ(タイムアタック区間。SSと略される)をどこに設けるのか、です。新城ラリーで使用したスペシャルステージは、最長のものでも12.56kmと、どれも短いものばかり。WRCのイベントでは、スタジアムなどでショー的に行われる「スーパーSS」を除けば、短くて10km、だいたいは15~20km近くのスペシャルステージが10カ所程度。これを2回走行して、全部で20前後のスペシャルステージで争うのが通常です。新城ラリーはステージの総距離が100km程度ですが、WRCでは300km必要になります。

観客はステージに行けるのか?

 山の中の1本道をステージにしてしまうと、事故が起きたときの緊急車両のアクセス路が確保できないという重大な問題がありますし、さらに、観客のアクセスも考えなければなりません。実は、11月の新城ラリーでは、観客の観戦スポットは、メイン会場とサテライト会場の2カ所に設けられただけで、ラリーカーが全力でアタックする林道のスペシャルステージに観客が行くことは禁止されていたのです。

ラリー・ジャパンのキャンディデート・イベント、新城ラリーの様子はWRC公式サイトにも掲載された。新城ラリーには、5万3000人もの観客が訪れた。コース脇に大勢の観客がいるのはメイン会場やサテライト会場近くのSSのみ。林道SSには観客が入れなかった

 海外で開催されるラリーではコース脇に観客があふれているのですが、観客が一人もいないというこの光景は、はっきり言って異常です。私は11月中旬に最終戦のラリー・オーストラリアに行ったのですが、そこで知人のジャーナリスト、カメラマン(いずれも外国人)に、「ジャパンのキャンディデート・イベントは、無観客だったって本当?」と聞かれました。WRCのイベントは、どのラリーも、すべてのステージに観客がアクセスすることができ、1つのステージで複数箇所に観戦スポットがあるのが普通です。

 もし仮に、ラリー・ジャパンでは観客がスーパーSS以外のステージに行くことができないなら、観客が誰もいない森や林の中の道をラリーカーが走るだけの映像が全世界に流れることになってしまいます。現在、WRCはすべてのステージがネットで生中継されていますから、それは日本以外の人にとっては「異様な光景の世界的拡散」になってしまうでしょう。

コース脇に詰めかける観客も、ラリーの重要な要素。ラリー・ポルトガルの名物ステージ「ファフェ」には10kmほどのステージに数万人の観客がやって来る ©TOYOTA GAZOO Racing

 もちろん、日本ならではの事情があることはわかります。日本の林道や山道はたいてい急峻でアクセスも悪く、観客が自由にアクセスできる場所を設けることは、ほとんど不可能かもしれません。もしかしたら、観戦場所を作るために斜面を削る大工事が必要かもしれません。海外では民家のすぐ前の道路がSSになることも珍しくありませんが、日本でいきなりそんなことは難しいでしょう。

観客動員数が多くないと言われるコルシカでも、沿道にはこれだけのファンが押し寄せる ©Red Bull Content Pool

 それでも私は、WRCファンの1人として、観客がステージに行けることは必要不可欠だと思います。

 スーパーSSなどアクセスしやすい場所へ家族連れで気軽に行けるのもよいのですが、やはり本気のアタックが見られるSSで観戦したい。それがラリーの大きな魅力だからです。選手達にとっても、観客がいるからこそがんばろうという気持ちになるでしょう。また、コースオフしたりスタックした車を助ける観客がいなければ、ささいなことでリタイヤに追い込まれてしまいます。

 もし、2019年開催が実現していたら、こうした問題への対応が間に合わなかったかもしれません。でも、2020年なら十分時間があります。かつてミッコ・ヒルボネンのコドライバーで、トヨタGAZOOレーシングでスポーティング・ディレクターを勤めていたヤルモ・レーティネンがラリー・ジャパンのコース選びに呼ばれています。ちなみに、その後のスポーティング・ディレクターには、このコラムにも登場したカイ・リンドストローム氏(こちら)が就いています。

 2019年の開催が見送られたことが確定した後、WRCを通じてできた友人たちからは「2020年には日本に行きたい」と、次々とメッセージが届きました。また、11月に行ったオーストラリアでも、セバスチャン・オジェやコドライバーのジュリアン・イングラシアが「来年日本に行けなくて残念だよ。再来年に行くから」と言っていました。また、オーストラリアに来ていたオジェのご両親や友人たちも「2020年にはみんなで日本に行くから、よろしく」と。

 東京オリンピックの開催年でもある2020年、WRCが日本にやってくることを心から願っています!