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 これらのことからわかるように、2019年開催を目指す新ラリー・ジャパンは、以前北海道で開催されていたラリー・ジャパンとは、場所も、主催者もまったく異なるものなのです。さらに言えば、北海道で開催されていたのは、グラベル(未舗装路)でしたが、愛知・岐阜ではターマック(アスファルト)でのラリーです。主催者も国内プロモーターも、WRCイベントを招致するのは始めての経験。このことが、後々、日本が突然WRCのカレンダーから落とされる伏線でもありました。

 ところで、WRCの開催地はどのようにして決まるのでしょうか。WRCはF1と同じく、FIA(世界自動車連盟)が主催する世界選手権です。WRCイベントの運営や、TV放映、マネジメントなど興行面での統括は、WRCプロモーターという会社が行っています。WRCプロモーターが開催地を選定し、それがFIAの内部組織である世界モータースポーツ評議会の総会にかけられ、次年度のカレンダーが決定します。

 要するに、WRCプロモーターは、F1でのフォーミュラワン・グループに相当するものだと思ってください。え? 最近F1を見ていないから、フォーミュラワン・グループを知らない? では、バーニー・エクレストンはご存知でしょうか。F1チーム、ブラバムのオーナーだったエクレストンは、F1グランプリの運営・放映権管理を行う企業グループ「フォーミュラワン・グループ」を築き上げ、グループ内のFOM(Formula One Management)という会社がその中心的役割を担っていました。F1が現在のように非常に商業価値があるものになったのは、エクレストンの手腕によるものです。ちなみに、2017年からはアメリカのメディア関連企業であるリバティメディアがフォーミュラワン・グループの新オーナーとなりました。リバティメディアは、日本で住友商事と組んでケーブルテレビのJ:COMを設立したりしています。ショッピングチャンネルのQVCもリバティメディア傘下です。

 かつてエクレストンが、日本以外のアジア諸国や中東など「F1不毛の地」にサーキットを作らせ、F1グランプリが文字通り世界中で開催されるようになり、F1ブランドの価値を大いに高めることに成功したように(一方で開催料やTV放映料の高騰で問題も生んだわけですが)、WRCプロモーターもWRCイベントを興行として成功させなければなりません。

 現在のWRCイベントは、ヨーロッパ内での開催が多数を占めます。「世界選手権」をうたうのですから、WRCプロモーターとしては、アジアでの開催を望んでいました。そこへちょうどトヨタがWRCに復帰してきて、ラリー・ジャパンを招致することになり、WRCプロモーターにとっても願ったり叶ったりだったわけです。

WRCプロモーターと契約を結ぶ

 おまけに、新ラリー・ジャパンのバックにはトヨタがついているので、資金が豊富にあります。WRCプロモーターが新イベントに対して望む条件の1つに、複数年にわたって安定して開催できること、そのための資金力が十分であることがあります。1度開催しただけで、翌年は「やっぱ無理です」と逃げられては、その国でのWRCブランドの定着も、参戦する自動車メーカーの周知もあったものじゃありません。

 新ラリー・ジャパンでは、愛知県の大村秀章知事も開催実現への協力を約束しており、地元自治体との連携も取れていました。現在WRCのカレンダーに入っているイベントでも、資金不足が問題になっていたり、地元との軋轢で「来年は開催できないのでは」としょっちゅう噂されているラリーは複数ありますが、新ラリー・ジャパンはそれらの不安要素はなく、そこは大きな強みでした。

 こうして、2018年8月にWRC日本ラウンドの国内プロモーターであるサンズがWRCプロモーターと4年間の契約を結び、WRC日本ラウンド招致準備委員会はJAFを通じてFIAに2019年WRC開催のカレンダー申請を行ったのでした。時期としては、11月14日~17日、11月7~10日、9月12日~15日の3つを候補として設定していました。あとは、世界モータースポーツ評議会で承認・可決され、正式発表を待つばかり、だったのです。

WRCプロモーターと契約を締結。WRCプロモーターのマネージング・ディレクター、オリバー・シースラ氏とラリー・ジャパン運営事務局長、高橋浩司氏 © WRC日本ラウンド招致準備委員会